* 遅いインターネット(2020年) 遅いインターネット (幻冬舎文庫) 作者:宇野常寛 幻冬舎 Amazon ⑴ AnywhereとSomewhere 宇野常寛氏は鮮烈なデビュー作となった『ゼロ年代の想像力』(2008)以降、特撮やアニメーションなどのポップカルチャー批評を通じて…
* 動物の時代における人間の条件 東浩紀氏の代表的著作である『動物化するポストモダン』(2001)の続編である『ゲーム的リアリズムの誕生』(2007)は一般的に当時のオタク系文化を席巻していたライトノベルや美少女ゲームについて論じた著作であるとされ…
*「おいしい」の美学 人間の感性という領域を扱う哲学である美学において食事をして「おいしい」と感じる感性は従来周縁的なものに位置付けられていました。そもそも近代哲学において味覚や嗅覚、または触覚という感覚は「低級感覚」と呼ばれ「高級感覚」と…
* 美学とは何か 「美学」とは美や芸術について考える哲学です。「美学」という学問は18世紀のヨーロッパで誕生し、日本には明治時代に、そのほかの西洋文化とともに流入してきました。「美学」という言葉はその原義に立ち返ると「感性の学」を意味していま…
* 散歩と創造性 古代ギリシアの哲学者アリストテレスがアテナイ郊外に創設した「リュケイオン」という学園に属する学派は「逍遥学派」と呼ばれています。「逍遥」などというとなんだか難しく聞こえますが、つまるところ「散歩」のことです。アリストテレス…
* 村上春樹はむずかしい? いまさらいうまでもないことかもしれませんが、現代日本人作家の中で村上春樹氏ほど特異な存在感を放つ作家はいないでしょう。発行部数1300万部のベストセラー『ノルウェイの森』(1987)をはじめとして『羊をめぐる冒険』(1982…
*「読書」における「教養」 昨年のベストセラーとなり今年度の新書大賞を受賞した三宅香帆氏による『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(2024)は近代日本社会の「読書」と「労働」の関係を俯瞰した上で現代において「読書」は「労働」にとっての「ノ…
* 自炊と批評 春は進学や就職によるひとり暮らしをきっかけに多くの人が「自炊」を始める季節でもあります。そうした季節柄を意識してかどうかはわかりませんが、今年のユリイカ3月号の特集テーマは「自炊」です。日本を代表する文芸批評誌と「自炊」という…
*「私が歩く」とは能動なのか受動なのか 我々は日々あらゆる行為を「能動(する)」と「受動(される)」に分類しています。そして外形的にはまったく同じ行為でも状況次第で例えば「仕事をする」「家事をする」「勉強をする」という「能動(する)」にもな…
* きみの言い訳は最高の芸術(2016年) きみの言い訳は最高の芸術 (河出文庫) 作者:最果タヒ 河出書房新社 Amazon ⑴「過剰な何か」を刺し止める言葉 2007年に公刊された第一詩集『グッドモーニング』で第13回中原中也賞を受賞し、ゼロ年代の現代詩シーンに…
*「価値」を創り出すということ 人は自分でも知らず知らずのうちに自ら作り出したさまざまなルールのなかで生きています。この点、行動療法では「言語」も「行動」の一つとして捉えられており、このうち言語の「話し手」の行動は「言語行動」といいます。と…
*「消費」の外部としての「浪費=贅沢」 國分功一郎氏が2011年に公刊した『暇と退屈の倫理学』は第2回紀伊國屋じんぶん大賞を受賞するなどその当初から人文書としては異例の話題を呼び、公刊から10年以上経つ現在でも幅広い層に読まれ続けるロングセラーと…
* LGBTQの片隅から 性の多様性を考察する比較的新しい学問領域であるクィア・スタディーズは社会的には1980年代に世界各国のゲイコミュニティが直面したHIV/AIDSという問題を受けて、学問的にはフランス現代思想におけるポスト構造主義の影響の下で成立しま…
* 全体主義の起源と〈グレート・ゲーム〉 20世紀を代表する政治哲学者であるハンナ・アーレントは1951年に公刊した大著『全体主義の起源』においてヨーロッパの国民国家の一部が19世紀の帝国主義を経て、20世紀の全体主義を形成していくそのメカニズムを考…
* 映画への希望と失望 かつて「映画は世界の認識を変える」と素朴に信じられた時代がありました。リュミエール兄弟が1895年にシネマトグラフを公開して以降、ある時期までのフランスでは「映画」という新時代のメディアは従来の時空間の観念を変容させ、伝…
*〈父〉と〈母〉の分裂 日本哲学を代表する哲学者の一人である九鬼周造は1988年(明治21年)に男爵九鬼隆一の四男として東京に生まれました。九鬼家の祖先は戦国時代に伊勢志摩を本拠として活躍した伊勢水軍です。周造の父、九鬼隆一は1852年(嘉永5年)の…
* 今村作品におけるひとつの到達点 令和初の芥川賞作家となった今村夏子氏は大学を卒業後、工場や電話代行や警備会社やホテルの客室清掃などのアルバイトなどを転々として、29歳の時にバイト先から「明日休んでください」といわれたのがきっかけで、どうい…
* 動員の革命から相互評価のゲームへ 2000年代後半以降のソーシャルメディアの普及は人々の情報環境に劇的な変化をもたらしました。そして2010年代とはソーシャルメディアを活用した新たなかたちの市民運動が生み出された時代でもありました。当時、一世を…
*「好き」を言葉にするということ この世界はさまざまなコンテンツで満ち溢れています。小説、映画、漫画、絵画、写真、音楽、舞台、ドラマ、アニメ、ゲーム、イラスト等々。こうしたコンテンツが日々いたるところで間断なく生み出され、多くの人たちを魅了…
* 嘘と真実の処方箋 臨床心理学者河合隼雄氏の名著として知られるエッセイ集『こころの処方箋』(1992)のなかに「うそは常備薬 真実は劇薬」というエッセイがあります。その要旨は以下のようなものです。 一般的に人々は適当な嘘を上手に混じえて人間関係…
* こうの作品における表面と深層 2016年に公開された映画が大きな反響を呼んだ『この世界の片隅に』で知られるこうの史代氏は1995年に『街角花だより』でデビューした後、1997年から初期の代表作といえる『ぴっぴら帳』を7年に渡り長期連載し、四コマ漫画家…
* 日本哲学入門(藤田正勝) 日本哲学入門 (講談社現代新書) 作者:藤田正勝 講談社 Amazon ⑴ 日本哲学のはじまりと西田幾多郎 日本における哲学の歴史は一般的にはPhilosophyを「哲学」という日本語に訳したことでも知られる西周が行った哲学講義によって始…
* ライトノベルの成立条件 文芸批評家の柄谷行人氏は『日本近代文学の起源』(1980)において日本文学における「一つの認識論的布置」としての「風景の発見」は明治20年代に起きた「言文一致」という運動によって生まれた新たな文体によって可能になったと…
* 17音の魔法 言葉によって織り成されるさまざまなテクストはその言葉に宿る「意味」と「リズム」のいずれかを重視するかによって「散文」と「韻文」に大別されます。ここでいう「散文」とは小説、随筆、論文、法律、手紙、新聞記事、SNSのつぶやきなどを典…
*「読書離れ」の諸相 先月末より「秋の読書推進月間(2024年10月26日〜11月24日)」が始まっています。これは2022年から始まった全国の書店が参加する業界規模のキャンペーンであり、各地では作家を招いて本の魅力を伝えるイベントなどが開催されているよう…
* 近代日本文学における「風景の発見」 文芸批評家の柄谷行人氏によれば日本における「風景の発見」は明治20年代に生じたとされます。もちろん自然としての風景は太古の昔から存在していましたが、ここで柄谷氏のいう「風景」とは自然物として存在する風景…
* ポストメディア時代の思想家 フランスの哲学者ジル・ドゥルーズと精神分析家フェリックス・ガタリの共著『アンチ・オイディプス』(1972)は1968年にフランスで起きたいわゆる「5月革命」を駆動させた「欲望」の奔流を原理的に考察し、1970年代の大陸哲学…
* クィア・スタディーズとパフォーマティヴィティ 性、特にセクシュアルマイノリティに光を当てる学問分野であるクィア・スタディーズは社会的には1980年代に世界各国のゲイコミュニティが直面したHIV/AIDSという問題を受けて、学問的にはフランス現代思想…
* いかにして現代詩と「和解」するか 詩人の渡邊十絲子氏は『今を生きるための現代詩』(2013)において自身が詩を書き始めた1980年代に比べて現代では詩というジャンルそのものが凋落の一途を辿っていることを指摘し、現代詩が敬遠される理由としてそもそ…
* 柳田国男の山人論 日本民俗学の祖、柳田国男はその初期において『後狩詞記』(1909)『遠野物語』(1910)をはじめとする一連の民間伝承に関する論考を発表していますが、そこでのテーマとしているものの一つに「山人」の問題があります。ここでいう「山…