かぐらかのん

本や映画の感想などを書き記していくブログです。

2017-01-01から1年間の記事一覧

【書評】精神分析の四基本概念(ジャック・ラカン)

ジャック・ラカン 精神分析の四基本概念 作者:ジャック ラカン 岩波書店 Amazon 衒学性に満ちた難解奇抜な理論と人を煙に巻くような独特な語り口にもかかわらず、精神分析のみならず現代思想の領域においても未だにカリスマ的人気を誇るジャック・ラカン。そ…

いろいろな「好き」の共生。「愛されたい」と「愛している」の違い。--カードキャプターさくら(CLAMP)

「カードキャプターさくら」という作品はご存知でしょうか?1996年から2000年まで「なかよし」に連載され、本来の読者層である小中学生女子のみならず幅広い層を熱狂させ、その一世を風靡。その後も人気は全く衰える事が無いどころか、年を追うごとに着実に…

「こころの最終講義(河合隼雄)」を読む。自己実現という円環。「物語」の崩壊と再構築。

京都大学での最終講義を含む河合隼雄先生の講演集です。各講義はばらばらの機会にされたものですが、全体を通じて見ると「自己実現の過程における物語」と言うようなテーマに収斂しているように思えます。 まず、今や伝説とも称される京都大学退官記念講義「…

「置かれた場所で咲きなさい」の著者による新訳聖書入門--愛することは許されること(渡辺和子)

「私が私であるということ」。これを「アイデンティティ」と言いますが、何を持ってアイデンティティとするかは極めて難しい問題です。河合隼雄氏は米国の発達心理学者エリク・H・エリクソンの「個人として社会にコミットすること」というアイデンティティ概…

「自己実現」としての「老い」--「老いる」とはどういうことか(河合隼雄)

読売新聞でのコラム連載を基にした110編と免疫学の多田富雄氏との対談。河合先生のエッセイの中でも比較的短く、1編1分くらいで読めます。何気ない文章の随所に、ユング派分析家、あるいはカウンセラーとしての深い洞察が感じられます。 ****** カール…

高菜とあごだしで和風ペペロンチーノ

最近よく作るピリ辛パスタのメモ書きです。私は辛いのが大好きな人なので唐辛子も高菜もつい気持ち多めに入れてしまいますが、辛いのが苦手な方はやや控えめにしてみたほうがいいかもしれませんね。 今年はどういうわけかあごだしが流行っているみたいですけ…

「愛されたい」から「愛してる」への生き方の転換--置かれた場所で咲きなさい(渡辺和子)

昨年暮れに89歳で天寿を全うされた渡辺和子シスターの言わずと知れたベストセラーです。文章は論旨明晰。シンブルな言葉ながらその文体は凛としていて美しい。 渡辺和子さんという人は9歳だった昭和11年、あの二.二六事件において僅か1m先の眼前で陸軍大将だ…

無意識と格闘するということ--昔話の深層(河合隼雄)

本書は「ヘンゼルとグレーテル」「いばら姫(眠れる森の美女)」といった、あのグリム童話の数々をユング心理学の視点で鮮やかに読み解いていく目から鱗のグリム童話解説です。 河合隼雄先生といえば、面白エッセイストとか対談の名手、あるいは文化庁長官と…

待望の桜ルートの映画化--Fate/stay night [Heaven's Feel] 〜I.presage flower

本作の原作「Fate/stay night」は2004年にTYPE-MOONより発売されたPCゲームです。当時は18禁アダルトゲームという扱いながら記録的なヒット作品となり、その後も漫画・小説・アニメ・映画・スマホゲームなど多彩なメディアミックス展開によって、現在に至る…

苺を育ててみる。

今回購入した苗は四季なりの品種。春だけではなく、夏と秋にも実をつけるやつです。 苺には春植えと秋植えがありますが、早く収穫を楽しみたいのなら秋植えがおすすめみたい。 春植えだと、その苗自体からの収穫ではなく、その子苗を秋植えすることになり、…

包み込む母性原理と切り離す父性原理--カウンセリングを語る(河合隼雄)

本書は四天王寺カウンセリング研修講座の講演録です。聴衆は主に学校の先生方で、当時は校内暴力が社会問題化していたという背景もあり、主に中高生にどう接していくかという点に主眼が置かれている。似たような話が形を変えて何度も出てきますが、そこから…

「君の膵臓をたべたい(住野よる)」を読む。生の欲望と出会い損ないの物語。

原作が出た時、満開の桜の表紙と猟奇的なタイトルの不思議な組みあわせに少し心惹かれましたが、その時は結局読まず終い。ただずっと気にはなっていた作品でしたので、今夏に公開された映画をきっかけに原作の方も手を出してみました。 12年後の【僕】が物語…

華々しいバトル。煌びやかな日常。そして、堆積していく謎--カードキャプターさくら・クリアカード編1〜3(CLAMP)

およそ20年前、多くの年端もいかない女の子達、そして「大きなお友達」を、尋常でない熱狂の渦中に叩き込み、そして彼ら彼女らのその後の人生に多大な影響を与えたと言われる作品がありました。そうです、CLAMPさんの不世出の名作「カードキャプターさくら」…

麻婆豆腐の「3つの極」

豆豉醬って、豆板醤や甜麺醤に比べてマイナーですけど、麻婆豆腐に使うと味のバランスがぐっと整うんですよ。 完全なる私見で恐縮なんですが、麻婆豆腐の構造を支えるのは辛味、甘味、塩味の「3つの極」で、辛味の極は豆板醤が、甘味の極は甜麺醤が、そして…

良質な睡眠の鍵は「深部体温」にあり--スタンフォード式最高の睡眠(西野精治)

著者はスタンフォード大学の精神科教授。スタンフォードは睡眠研究のメッカとして知られます。1953年のレム睡眠の発見以来、いち早く睡眠医学の可能性に注目。1963年、世界初の本格的な睡眠研究機関「スタンフォード睡眠研究所」を設立。1989年に初めて睡眠…

映画「スティーブ・ジョブズ(2015年)」を観る。飽くなき理想と野心の果てにあるもの。

スティーブ・ジョブズ (2015年の映画) - Wikipedia スティーブ・ジョブズ。1976年、21歳でスティーブ・ウォズニアックと共にAppleを創業。1984年、革新的なグラフィカルユーザーインターフェイスを備えたMacintoshを発売。その後、社内政治の力学の結果、198…

構造主義をまとめて横断的にざっくりと知ることができる一冊--寝ながら学べる構造主義(内田樹)

現代思想系の記事や、アニメの批評記事なんか読んでると、たまに何気に出てきませんか?「構造主義」っていう言葉。なんとなくわかるようでよくわからないモヤモヤ感がありますよね。 構造主義は、実存主義との対比という文脈で語られることが多く、その場合…

トマト栽培反省会

今日は「野菜の日」らしいですね。普段あまり野菜を食べない人は、ぜひ自分で何かの野菜を育ててみたらどうでしょうか?きっと愛着が湧いて、そこから野菜が好きになるキッカケを得られるかもしれないですから。 そんなわけで、今夏のトマト栽培について、と…

【感想】映画「君の膵臓をたべたい」

kimisui.jp 原作が出た時から満開の桜の表紙とグロテスクなタイトルの組みあわせに少し気にはなってましたが、結局読まず終い。今回実写映画化ということなのでとりあえず見てみるかという感じで、まったく予備知識なしで劇場へ。 物語のあらすじはこうです…

「自信がなくても幸せになれる心理学」を読む。褒めると人は輝く。そして、その輝きはあなたに返ってくる。

本書はハインツ・コフートの自己心理学の入門としては現時点での決定版ではないでしょうか。和田先生はコフートの入門書を何冊か著されていますが、本書はともかく実践に重きが置かれている。人を褒めるのに苦手意識を感じる人へお勧めです。 「褒めてはいけ…

自閉症圏への精神分析的アプローチの可能性を探る--発達障害の時代とラカン派精神分析

自閉症というカテゴリーについては、かつてはスキゾフレニー(破瓜型統合失調症)の早期発症、あるいは精神遅滞と混同されていた時代もありましたが、時代の変遷と共にこれらから切り離され独自の領野を形成してきたという歴史があるわけです。 自閉症を特徴…

「腸内フローラ10の真実」を読む。「お腹の調子を整える」だけではない。腸内フローラに秘められた可能性。

腸内フローラ(腸内細菌叢)というのは腸内における善玉菌、悪玉菌、日和見菌の棲み分けのことをいいます。 彼らはバラバラに住んでいるわけではなく、種類ごとにグループを形成して暮らしています。その様はまるでお花畑のように生態系を形成しているため、…

同感するということ、共感するということ

コミュニケーションにおける一つの技法として、よく「同感するのではなく共感することが大事です」などと言われますが、この二つは一体どう違うのでしょうか? 一般的な辞書的意味において、「同感」とは「同じように考えること、同じように感ずること」を言…

経口補水液ってどうなの?

今日は二十四節気の「大暑」ですので「水」に関するおはなし。 最近、熱中症対策アイテムとしてよく店頭で見かける経口補水液ですが、常飲していれば熱中症予防になるのか?というと、結論から言えばならないんですよ。 経口補水液というのは、通常のスポー…

冷製パスタの簡単レシピメモ

「レジスタントスターチ」というのをご存知でしょうか? 「レジスタント」=「消化されない」、「スターチ」=「でんぷん」で「難消化性でんぷん」のこと。 ご飯や麺類のでんぷんが冷えると一部がこのレジスタントスターチというものに変化します。 これは食…

エロマンガ先生最終話における「芸術の論理」と「去勢の論理」

honeshabri.hatenablog.com エロマンガ先生の最終話において、沙霧ちゃんの書いたエロマンガの局部描写にはモザイクがかけられており、ムラマサ先輩の書いたミケランジェロのダビデ象は無規制であったという問題です。 結論からいえばこれは社会常識的に妥当…

「引きこもり」とラカン的〈他者〉の欲望--引きこもりはなぜ「治る」のか?(斎藤環)

本書は引きこもりの臨床という極めて限定した領域を扱った本と見せかけて、普通の対人関係においても活用できることが多く書かれており、実用書的な価値も高いです。 また具体的な臨床実践を通じた精神分析理論のガイダンス本としても読めるので、精神分析っ…

水溶性食物繊維をとりましょう♪

腸内フローラの適正化においては乳酸菌の摂取だけではなく食物繊維の摂取も重要なカギとなります。 ところで食物繊維は不溶性と水溶性に分かれているのはご存知でしょうか?それぞれ役割が違うんです。 ざっとまとめると不溶性食物繊維の特徴はこんな感じ。 …

「個人心理学講義(アルフレッド・アドラー)」を読む。優越性の追求から劣等コンプレックスへ至る導線。

本書は成立における諸般の事情も相まって「読みにくい」とか「体系だっていない」という評価もありますが、それはその通りだと思います。 また『嫌われる勇気』で大きくクローズアップされている、勇気づけ、課題の分離などについてはあまり立ち入った考察は…

「傾聴」と「勇気づけ」

アドラー心理学の説く「勇気付け」と傾聴技法というのはかなりの部分、クロスオーバーする領域だと思うんですよ。 勇気付けというのは定義的には「横の関係による援助」です。アドラーの対人関係論から言えば、評価、操作の関係である「縦の関係」は劣等コン…