かぐらかのん

本や映画の感想などを書き記していくブログです。

「傾聴」と「勇気づけ」

アドラー心理学の説く「勇気付け」と傾聴技法というのはかなりの部分、クロスオーバーする領域だと思うんですよ。

勇気付けというのは定義的には「横の関係による援助」です。アドラーの対人関係論から言えば、評価、操作の関係である「縦の関係」は劣等コンプレックスを肥大化させ、信頼、尊敬の関係である「横の関係」は共同体感覚を練成する、という風に定式化できる。例の、「叱ってはいけない、褒めてもいけない」などと言われますが、この横の関係さえ出来ていれば、「叱責の言葉」や「褒め言葉」も、場合によっては「勇気付け」となりえるでしょう。

 

「叱ってはいけない、褒めてもいけない」というキャッチコピーの功罪: かぐらかのん

 

そして、人の話を「きちんと」聴くということは、単なる情報受信や意思疎通を超えた、その人の内的世界観の共有を意味します。よって、傾聴というのは勇気付けのベースとなる「横の関係」を生成する上での重要な要素というべきでしょう。

もちろん、「きちんと」聴くというのはただ人の話を何となく聴いてればいいわけじゃないです。聴き手の「聴いてます!理解しました(^o^)ノ」っていうメッセージがはっきり話し手に伝わらないと意味ないんですよね。

傾聴技法というのは、この「聴いてます!理解しました(^o^)ノ」ってメッセージを強烈に伝達する手段のようなものでして、基本的な①相槌、②反復、③反射の三つだけでも意識できれば、コミュニケーションの質はだいぶ違ってくるのではないでしょうか。

①相槌(Simple Acceptance)

相槌って、日常会話では案外適当なんですけど、「最小限の激励」とも言われ、話し手にその先をおっしゃってくださいというメッセージを伝えることができるので、きちんとした相槌は勇気付けとして作用します。

相槌の基本3言葉は「はい」「ええ」「うん」。プロカウンセラーはこの3つの相槌を徹底的に練習すると言われます。因みに、「うん」というニュアンスは、子供がお母さんに「うん!」と叫ぶ「うん!」じゃなくて、優しく「うんうん」と頷く「うん」ですね。

②反復(Restatement)

もっとも、単に、ええ、ええと延々と相槌を打つばかりでは話し手としては「本当に聴いているの?」と感じるでしょうから、時には、相手の言った印象的なキーワードを反復してみたりする。

反復においては基本的に話し手となるべく同じ言葉を使うのがセオリーなんですけど、例外的に、話し手が自己否定的なマイナス言葉を発した時は、聴き手はそれを積極的にプラス言葉に言い換えることを心がけるべきでしょう。

例えば、話し手が「断れない性格なんですよ」と言えば「そうか、あなたは優しいんですね」などと返すように。その積み重ねはいわゆるリフレーミング効果を生み出し、話し手の否定的な自己認知が徐々に肯定的な自己認知へと変容していくことが期待されると言われます。

③反射(Reflection)

そしてまた、ある時には「それは辛かったでしょう」「苦しかったんですよね」「だけど、嬉しかったんですよね」などといった、話し手の言葉の裏側にある喜怒哀楽の感情面に焦点を当てた応答を心がけてみる。まさにこれはアドラーのいう「大切なことは共感すること。共感とは、相手の目で見、相手の耳で聞き、相手の心で感じることだ」ということです。

こんな風に、その一つ一つはバカバカしいくらい、本当に小さな小さな積み重ねなのかもしれませんけどね。ただね、何者でもない凡人たる我々が日常的なコミュニケーションという想像的軸上で勇気付けを実践したいのであれば、こういった日々の営為こそが、「トラウマは存在しない\(^o^)/」とか「課題を分離しろ\(^o^)/」などといった、聞き齧りのアドラーの理論をもっともらしく「アドバイス」してあげるよりも、長い目で見れば、よっぽど横の関係の生成に寄与するものではないかと思うわけです。