本書は成立における諸般の事情も相まって「読みにくい」とか「体系だっていない」という評価もありますが、それはその通りだと思います。
また『嫌われる勇気』で大きくクローズアップされている、勇気づけ、課題の分離などについてはあまり立ち入った考察はされていないです。 よってアドラー理論を生活の中でいますぐ役立てたいという人向きではないと思います。
ただ、アドラー理論の中核である、優越性の追求からライフスタイルの形成、劣等コンプレックスに至るまでの論証はとても詳細でわかりやすい。
つまり、人はあくなき優越性を追求する生き物であり、逆に言えば現状に常に満足していない。これを称して「劣等感」という。劣等感は否定されるべき感情ではなく、より良くなろうとする優越性の追求と裏表の関係(相補的関係)にあります。
そして優越性の追求(劣等感)の結果、形成された個人的な信念や世界観をライフスタイルと呼び、何らかの挫折経験でライフスタイルを拗らせてしまった状態が「~だから俺はダメなんだ」という劣等コンプレックスと呼ばれるものということになります(そういう意味で劣等コンプレックスというものは精神分析でいうエディプスコンプレックスとは位相を異にするものであり、どちらが根本的なコンプレックスかという二者択一的な議論はやや的外れのように思えます)。