かぐらかのん

本や映画の感想などを書き記していくブログです。

2024-01-01から1年間の記事一覧

リズムのあいだ、あいだのリズム--千葉雅也『センスの哲学』

* 有限性の哲学--意味がある無意味と意味がない無意味 千葉雅也氏の哲学をあらわすキーワードの一つに「有限性」というものがあります。ここでいう「有限性」とは物事の「意味」と「無意味」をめぐる問題に関わっています。千葉氏は『意味がない無意味』…

これから東浩紀に入門するためのおすすめ7冊

* 訂正する力(2023年) 訂正する力 (朝日新書) 作者:東 浩紀 朝日新聞出版 Amazon ⑴「訂正可能性」から読み解く東思想 昨年、批評家デビュー30周年を迎えた東浩紀氏は1993年にかつての「ニューアカデミズム」を牽引した柄谷行人氏と浅田彰氏が編集委員を務…

臨床行動分析から読み解く『窓ぎわのトットちゃん』と『ぼっち・ざ・ろっく!』

* 行動療法の歴史と臨床行動分析 はじめてまなぶ行動療法 作者:三田村仰 金剛出版 Amazon 我々は主体的に行動しているつもりでも実際のところ、その「行動」は自身が置かれた「環境」に規定されています。ここでいう「環境」とは身体や住居といった物理的環…

訂正されるコミュニケーション--佐藤俊樹『社会学の新地平』

*「社会学」の誕生とマックス・ウェーバー 「社会という秩序はいかにして可能になるか」を考察する「社会学」という学問は19世紀に始まりました。18世紀末に起きたフランス革命はヨーロッパの知識人に二つの革命的な考え方をもたらしました。第一に政治体制…

自己治療としての批評--岩川ありさ『物語とトラウマ』

* トラウマという領域 戦争や災害や事件や事故といった出来事はしばし人のこころに「トラウマ」と呼ばれる深い痕跡を残します。従来、トラウマをめぐる研究は精神医学、心理学、文化人類学、当事者研究といったさまざまな学問領域において多角的な視点から…

「正しさ」をめぐる思考実験--九段理江『東京都同情塔』

*「訂正」される「正しさ」 批評家の東浩紀氏は近著『訂正する力』(2023)において過去との一貫性を主張しながらも実際には過去の解釈を変えて現実に合わせて変化する力としての「訂正」の論理の重要性を説いています。人間の行うコミュニケーションには奇…

差異と反復の詩学--最果タヒ『十代に共感する奴はみんな嘘つき』

* 差異と同一性 通常、人は「同一性(おなじもの)」を基準としてそこから逸脱したものを「差異(ちがうもの)」として位置付けます。このような意味で人の経験は「同一性」なくしては成り立ちません。しかし実際の経験の流れの中に身を浸してみると、事物…

人間の消滅から人間の再発明へ--客的-裏方的二重体の時代

* 人間の消滅とポスト・ヒューマニズム ポスト構造主義を代表する思想家の1人であるミシェル・フーコーは『言葉と物』(1966)において「人間の消滅」という挑発的なテーゼを提示して一躍時代の寵児としての地位を確立しました。難解な専門書にもかかわらず…

映画は90分で何を語り得るか--『映画大好きポンポさん』

* 映画90分説 フランス文学者にして映画評論家の蓮實重彦氏は「映画90分説」というものを提唱しています。いうまでもなく、これは映画の上映時間の話です。氏は近著『見るレッスン』(2020)においても映画というものはほぼ90分で撮れるはずであると述べ、…

大江文学における〈物語〉--尾崎真理子『大江健三郎の「義」』

* 大江健三郎と柳田国男 1979年に発表された大江健三郎氏の代表作の一つである『同時代ゲーム』は日本における本格的なポストモダン小説の先駆けとして評価される一方で、批評家の小林秀雄氏が「二ページでやめた」と大江氏自身が自虐的に伝えるほどに極め…

クィア・ケア・訂正可能性--武内佳代『クィアする現代日本文学』

* クィア理論と文学 一般的に「クィア理論 Queer Theory 」とは1990年にカルフォルニア大学サンタクルーズ校の学術会議におけるテレサ・ド・ラウレティスの提唱した用語が起源とされています。日本語では「変な」「奇妙な」などと訳される「クィア」という…