かぐらかのん

本や映画の感想などを書き記していくブログです。

2020-01-01から1年間の記事一覧

【書評】こころの処方箋(河合隼雄)

こころの処方箋(新潮文庫) 作者:河合 隼雄 発売日: 2013/08/02 メディア: Kindle版 *「常識」なき時代の「常識」を問う 現代とはある意味で「常識」の失墜した時代です。時に誰かの「常識」は別の誰かの「非常識」となり得ます。ソーシャルメディアにおけ…

少女の〈あはれ〉と天使の〈まなざし〉--私に天使が舞い降りた!1〜8(椋木ななつ)

気ままな天使たち/ハッピー・ハッピー・フレンズ(通常盤) アーティスト:わたてん☆5 発売日: 2019/01/30 メディア: CD 私に天使が舞い降りた!: 1 (百合姫コミックス) 作者:椋木 ななつ 発売日: 2017/05/18 メディア: Kindle版 *「エス」から「おねロリ」へ …

存在の問いと生の在り処--「ハイデガー『存在と時間』入門(轟孝夫)」

" data-en-clipboard="true"> ハイデガー『存在と時間』入門 (講談社現代新書) 作者:轟孝夫 発売日: 2017/07/28 メディア: Kindle版 " data-en-clipboard="true">* 未完の欠陥商品 そのいかにも哲学書然とした荘厳なタイトルに重厚な記述。「20世紀最大の哲…

「鬼」が跋扈する時代の虚構と現実--鬼滅の刃

" data-en-clipboard="true"> 鬼滅の刃 1(完全生産限定版) [Blu-ray] 発売日: 2019/07/31 メディア: Blu-ray " data-en-clipboard="true">* 不安に満ちた時代の〈おはなし〉 臨床心理学者、河合隼雄氏は折に触れて、現代における〈おはなし〉の重要性を強調…

言語からの自由と言語への自由--ロラン・バルト 言語を愛し恐れつづけた批評家(石川美子)

ロラン・バルト 言語を愛し恐れつづけた批評家 (中公新書) 作者:石川美子 発売日: 2020/02/14 メディア: Kindle版 * 第一人者による伝記風入門書 人は言語に囚われた生き物です。我々の思考や経験、行動や習慣、あるいは趣味や嗜好の様式は、母国語という言…

価値を変える知の考古学--「ミシェル・フーコー 近代を裏から読む(重田園江)」

ミシェル・フーコー ――近代を裏から読む (ちくま新書)作者:重田園江発売日: 2014/01/31メディア: Kindle版 * フーコー愛に溢れた一冊 人は知らず知らずのうちにある種の固定観念で世界を捉えます。その固定観念の枠内にいる限り、時としてその世界は非常に…

つぎはぎだらけの関係性を紡いでいくということ--星の子(今村夏子)

星の子 (朝日文庫) 作者:今村 夏子 発売日: 2020/01/31 メディア: Kindle版 * 特異な文体と普遍的な寓話性 現代を代表する作家、村上春樹氏は小説とは作家と読者との「信用取引」で成立しているといいます。そして、その「信用維持」において氏がもっとも重…

【書評】わたしの哲学入門(木田元)

わたしの哲学入門 (講談社学術文庫) 作者:木田元 発売日: 2014/05/23 メディア: Kindle版 * 哲学の〈難しさ〉の正体 哲学とはなにか?これ自体が一つの哲学的問いであり、哲学とは今ひとつ実体のはっきりしないわけのわからない領域と言えます。にも関わら…

「あたりまえ」を解体する実践知--「フランス現代思想史(岡本裕一朗)」

フランス現代思想史 構造主義からデリダ以後へ (中公新書) 作者:岡本裕一朗 発売日: 2019/03/15 メディア: Kindle版 * ソーカル事件 「ソーカル事件」というものをご存知でしょうか?1995年、ニューヨーク大学の物理学教授、アラン・ソーカルは、いわゆる「…

「セカイ」と「つながり」の間で--青くて痛くて脆い(住野よる)

青くて痛くて脆い (角川文庫)作者:住野 よる発売日: 2020/06/12メディア: Kindle版 * あの時、僕らは小さなセカイをつくった ゼロ年代初頭「セカイ系」と呼ばれる作品群が一世を風靡しました。「セカイ系」の定義については様々な議論がありますが、有り体…

悦びと生成変化のあいだ--「ドゥルーズ 流動の哲学(宇野邦一)」

ドゥルーズ 流動の哲学 [増補改訂] (講談社学術文庫) 作者:宇野邦一 発売日: 2020/02/10 メディア: Kindle版 * バランスの良いドゥルーズ哲学入門書 1960年代、フランス現代思想のトレンドは「実存主義」から「構造主義」へと変遷しました。レヴィ=スト…

「憐れみ」によって手を取り合うということ--「テーマパーク化する地球(東浩紀)」

テーマパーク化する地球 ゲンロン叢書 作者:東 浩紀 発売日: 2019/06/14 メディア: Kindle版 *「観光客の哲学」の舞台裏あるいは実践録 1990年代後半以降、日本社会においては「大きな物語」の失墜と呼ばれるポストモダン状況がより加速したと言われていま…

セカイ系のリアリズム--火垂るの墓

火垂るの墓 [Blu-ray] 発売日: 2012/07/18 メディア: Blu-ray * もう一つのリアリズム 野坂昭如氏の自伝的小説を原作にした映画「火垂るの墓」において監督を務めた高畑勲氏は日本アニメーションにおける「自然主義的リアリズム」を確立した第一人者として…

別の〈わたし〉を見つけるために--「一人称単数(村上春樹)」

一人称単数 (文春e-book)作者:村上 春樹発売日: 2020/07/18メディア: Kindle版 * 倍音を出す技術 フランス文学者の内田樹氏は村上春樹氏を「倍音を出す技術を知っている作家」であると評しています。「倍音」とは基本周波数の整数倍の周波数の音のことであ…

物語と文体の間--「みみずくは黄昏に飛び立つ(川上未映子・村上春樹)」

みみずくは黄昏に飛びたつ―川上未映子 訊く/村上春樹 語る―(新潮文庫) 作者:川上未映子,村上春樹 発売日: 2020/05/01 メディア: Kindle版 *「こちら側」と「あちら側」 臨床心理学者、河合隼雄氏はこころの病を癒す上で大切な事は「各人の生きている軌跡…

運命と絆の物語--マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝

「マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝」 Music Collection アーティスト:マギアレコード 発売日: 2018/08/22 メディア: CD * 「まどか」の名を冠するに相応しい物語 ゼロ年代アニメーションの総決算的作品として知られる「魔法少女まどか☆マギカ」。…

環境の外側に立つということ--人はみな妄想する-ジャック・ラカンと鑑別診断の思想-(松本卓也)

人はみな妄想する -ジャック・ラカンと鑑別診断の思想- 作者:松本卓也 発売日: 2015/04/24 メディア: 単行本 * 実存主義から構造主義へ 1960年代、フランス現代思想のトレンドは「実存主義」から「構造主義」へと変遷しました。ジャン=ポール・サルトルに…

行動療法の現在--「はじめてまなぶ行動療法(三田村仰)」

はじめてまなぶ行動療法 作者:三田村仰 発売日: 2018/09/06 メディア: Kindle版 * 行動療法と認知行動療法 現代心理療法シーンにおける主流を占める行動療法・認知行動療法の歴史は大まかに3つの世代に分けられます。 1950年代、南アフリカで戦争神経症の治…

宮廷愛から誤配へ--「イエスタデイをうたって afterword」

イエスタデイをうたって afterword (ヤングジャンプコミックスDIGITAL) 作者:冬目景 発売日: 2020/04/17 メディア: Kindle版 * まさかのアニメ化 独特の画風と世界観でカルト的な人気を誇る冬目景先生の代表作「イエスタデイをうたって」が連載完結から5年…

二層構造の時代における新たな公共性--「哲学の誤配(東浩紀)」

哲学の誤配 ゲンロン叢書 作者:東 浩紀 メディア: Kindle版 * 二層構造の時代における哲学 1994年、かつての「ニューアカデミズム」を牽引した浅田彰氏と柄谷行人氏が編集委員を務める「批評空間」第Ⅱ期第3号に「幽霊に憑かれる哲学--デリダ試論」と題さ…

対話による「新しい現実」の創出--「オープンダイアローグがひらく精神医療(斎藤環)」

オープンダイアローグがひらく精神医療 作者:斎藤 環 発売日: 2019/08/23 メディア: Kindle版 * オープンダイアローグとは何か フィンランドの西ラップランド地方トルニオ市にあるケロプダス病院のスタッフを中心に開発された「オープンダイアローグ(OD)…

スパイスカレーを知る上での新基準--「私でもスパイスカレー作れました!(印度カリー子・こいしゆうか)」

私でもスパイスカレー作れました! 作者:こいしゆうか,印度カリー子 発売日: 2019/06/07 メディア: Kindle版 * スパイスカレーの教科書 「何十種ものスパイス調合」「工程が複雑」「料理上級者向け」「普通はお店で食べるもの」等々。何かと敷居の高さを感…

ひだまり荘へ花束を--「ひだまりスケッチ1〜10(蒼樹うめ)」

ひだまりスケッチ 10巻 (まんがタイムKRコミックス)作者:蒼樹うめ発売日: 2020/03/27メディア: Kindle版 * ポスト・セカイ系としての「日常系」 1995年以降の日本社会においては「大きな物語の失墜」と言われるポストモダン状況がより加速したと言われて…

イロニーからユーモアへの折り返し--「動きすぎてはいけない(千葉雅也)」

動きすぎてはいけない ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学 (河出文庫) 作者:千葉雅也 発売日: 2017/09/15 メディア: Kindle版 * 生成変化の哲学 1960年代、フランス現代思想のトレンドは「実存主義」から「構造主義」へと変遷しました。実存主義とはジャン=…

「性愛」の深化から「友愛」の交歓へ--「カードキャプターさくら・クリアカード編 1巻〜8巻(CLAMP)」

カードキャプターさくら クリアカード編(8) (なかよしコミックス) 作者:CLAMP 発売日: 2020/04/01 メディア: Kindle版 * 新たなさくらの物語 少女漫画の枠組みを超えて現代サブカルチャーにおける魔法少女の概念を再発明したことで知られる創作集団…

日常から世界を問い直すということ--「遅いインターネット(宇野常寛)」

遅いインターネット (NewsPicks Book) 作者:宇野常寛 発売日: 2020/02/19 メディア: Kindle版 * 走りながら考える本 1995年以降の日本社会においては「大きな物語の失墜」と呼ばれるポストモダン状況がより加速したと言われています。「大きな物語」という…

「思考する快楽」としての勉強--「勉強の哲学(千葉雅也)」

勉強の哲学 来たるべきバカのために 増補版 (文春文庫) 作者:千葉 雅也 発売日: 2020/03/10 メディア: Kindle版 * 「勉強」と「生活」は表裏の関係 我々は社会生活を送る上で多かれ少なかれ「勉強」をしています。入学試験や資格試験など、わかりやすい「勉…

セカイから日常へ--CLANNAD

CLANNAD AFTER STORY コンパクト・コレクション Blu-ray (初回限定生産) 発売日: 2015/02/04 メディア: Blu-ray * 美少女ゲームの新境地 1980年代に登場したアダルトゲームは当初、ゲームの進行と共にエロティックな画像が表示されるといった性的快楽の描写…

「世界の果て」と「世界の片隅」--「最終兵器彼女1〜7(高橋しん)」

最終兵器彼女(1) (ビッグコミックス) 作者:高橋しん 発売日: 2013/07/15 メディア: Kindle版 最終兵器彼女(7) (ビッグコミックス) 作者:高橋しん 発売日: 2013/07/15 メディア: Kindle版 * 「セカイ系」の原点にして頂点 1995年以降の日本社会におい…

「空気」の外側に立つということ--「原子力時代における哲学(國分功一郎)」

原子力時代における哲学 作者:國分功一郎 発売日: 2019/10/04 メディア: Kindle版 * 「Atoms for Peace」 1950年代とはいうまでもなく「核兵器の恐怖」が世界を支配した時代でした。1949年にはアメリカに続き旧ソ連も原爆を保有したことが公にされ、これに…