かぐらかのん

本や映画の感想などを書き記していくブログです。

哲学

実践知としての哲学入門--東浩紀『訂正する力』

" data-en-clipboard="true"> *「訂正可能性」による日本社会のリノベーション 20世紀を代表する哲学者の1人であるルートヴィッヒ・ウィトゲンシュタインは後期の代表的著作である『哲学探究』(1953)において「人は言語を使ったゲームをルールを知らない…

「逆張り」は脱構築の夢を見るか--綿野恵太『「逆張り」の研究』

*「逆張り」の諸相 もともと「逆張り」とは株式相場の流れに逆らって売買する投資手法を指す言葉でした。例えば「投資の神様」と呼ばれるウォーレン・バフェットは逆張り(コントラリアン)で知られています。彼は2009年のリーマンショックでは経営危機に陥…

脱構築と公共性--東浩紀『訂正可能性の哲学』

* 訂正可能性--『存在論的、郵便的』の核心部 現代を代表する批評家/哲学者である東浩紀氏が1998年に世に放ったデビュー作『存在論的、郵便的』はフランスの哲学者ジャック・デリダが1970年代に書いた奇妙なテクスト群に光を当てた画期的なデリダ論として…

言語における身体性--今井むつみ・秋田喜美『言語の本質』

* 記号接地問題--AIに言語は「理解」できるのか 時に1990年前後、当時の人工知能(AI)研究に対して「記号接地問題」と呼ばれる批判が提起されました。この問題を最初に提唱した認知科学者スティーブン・ハルナッドはAIがある記号(例:りんご)を別の記…

資本主義リアリズム・再生産未来主義・それでも〈未来〉を語るということ--木澤佐登志『失われた未来を求めて』

* 資本主義リアリズムという病理 今日の現代思想シーンにおいて大きな潮流を形成する「加速主義」の代表的論客の一人としても知られるイギリスの批評家マーク・フィッシャーはその主著『資本主義リアリズム』(2009)において現代を席巻するグローバル資本…

「速さ」と「遅さ」のあいだで思考するということ--宇野常寛『砂漠と異人たち』

*「走る」ことと「書く」こと 今年6年ぶりの長編小説『街とその不確かな壁』を上梓した村上春樹氏は熱心な市民ランナーとしても知られています。時に1980年代初頭、当時30代前半だった村上氏はそれまで経営していたジャズ喫茶「ピーター・キャット」を他人…

人間と動物のあいだで思考するということ--東浩紀『観光客の哲学 増補版』

* 本質と非本質をめぐる逆説 本書は東浩紀氏が2017年に公刊した『ゲンロン0 観光客の哲学』の増補版です。周知のように『存在論的、郵便的』(1998)で日本の現代思想シーンに大きなインパクトを与え『動物化するポストモダン』(2001)によりゼロ年代批評…

これからラカン派精神分析にざっくり入門するためのおすすめ5冊

* 疾風怒濤精神分析入門(片岡一竹) 疾風怒濤精神分析入門 ジャック・ラカン的生き方のススメ 作者:片岡一竹 誠信書房 Amazon ⑴ 精神分析とは何か 精神分析とは19世紀末、オーストリアの精神科医ジークムント・フロイトが当時、謎の奇病とされたヒステリー…

1995年という原風景--千葉雅也『エレクトリック』

* 千葉哲学の原風景 昨年の読書界で大きな反響を呼んだ『現代思想入門』の著者である哲学者、千葉雅也氏の最新小説『エレクトリック』は、これまで発表された氏の小説『デッドライン』や『オーバーヒート』と共にひとつなぎの物語としても読める作品です。 …

クィア・スタディーズの基本概念とアンチ・ソーシャル的転回について

* クィア・スタディーズとLGBTQ クィア・スタディーズとは性の多様性を考察する比較的新しい学問領域であり、とりわけセクシュアルマイノリティ(性的少数者)に関する論点を多く扱います。周知の通りセクシュアルマイノリティは近年において「LGBTQ」とい…

インターネットの魔法と正義--最果タヒ『かわいいだけじゃない私たちの、かわいいだけの平凡。』

" data-en-clipboard="true"> * 最果タヒとインターネット 最果タヒ氏は2005年から思潮社の『現代詩手帖』に投稿を始め、周知の通り2007年には第一詩集『グッドモーニング』を上梓して史上最年少で中原中也賞を受賞していますが、それ以前の時期には「現代…

闇のライフハックとしての現代思想--ニック・ランドから『闇の自己啓発』へ

* 自己啓発の功罪 「自己啓発」なる言葉は当初、高度経済成長期下の労務管理の文脈において用いられていましたが、1980年代以降はニューエイジと呼ばれる精神世界と結びつき、やがて1990年代になるとオウム真理教をめぐる報道の中でそのイメージを悪化させ…

思弁的実在論と加速主義

* ポスト・ヒューマニズムの時代 14世紀のルネッサンス期に起源を持つ「ヒューマニズム」という言葉は、これまで「人文主義」や「人道主義」や「人間中心主義」などといった微妙に異なるニュアンスで用いられてきましたが、いずれにせよ「ヒューマニズム」…

これから現代思想にざっくり入門するためのおすすめ5冊

* 現代思想入門(千葉雅也) 現代思想入門 (講談社現代新書) 作者:千葉雅也 講談社 Amazon ⑴ 今なぜ現代思想か 最近「現代思想」がちょっとしたブームのようです。おそらくそのきっかけとなったのは気鋭の哲学者、千葉雅也氏が昨年3月に公刊した『現代思想…

実存・自由・ヒューマニズム--嘔吐(ジャン=ポール・サルトル)

" data-en-clipboard="true"> * 実存主義とは何か? 1945年5月7日、ドイツが無条件降伏を受諾したことでヨーロッパにおける第二次世界大戦は終結しました。当時のフランスでは戦争が終わったという解放感と社会全体に希望を見出せない不安感が奇妙に入り混…

パラノ・ドライブとスキゾ・キッズ

" data-en-clipboard="true"> * ニュー・アカデミズムの起爆剤としての「構造と力」 日本経済が空前のバブル景気へ向かいつつあった1983年9月、勁草書房という人文系出版社から一冊の本が出版されました。タイトルは「構造と力」。著者は浅田彰。当時、京都…

50年目のアンチ・オイディプス

* 二人で書くということ 「(ジル・ドゥルーズ)2年半ほど前のことになりますが、私はフェリックスと出会いました。フェリックスは、私が自分よりも先を行っていると感じていたし、何かを期待していた。私には精神分析家のような責任もなければ、精神分析を…

規律権力と生政治

" data-en-clipboard="true"> " data-en-clipboard="true"> *「人間学的思考」の起源を問い直す 1960年代、フランスにおける思想界のトレンドは「実存主義」から「構造主義」へと変遷します。ジャン=ポール・サルトルに代表される実存主義は人が独自の「実…

日本文学における実存と構造

" data-en-clipboard="true"> " id="実存主義の起源">* 実存主義の起源 「実存主義」とはいわば「哲学への叛逆」から始まりました。周知の通り、古代ギリシアにおいてソクラテスによって創始された「哲学」なる営為は、その後継者であるプラトンとアリスト…

哲学と反哲学

" data-en-clipboard="true"> " id="哲学の起源">*「哲学」の起源 「哲学」という言葉は直接的には「Philosophy」という英語に由来します。しかしこの「Philosophy」という言葉も元を辿れば「Philosophia」という古代ギリシア語をそのまま引き写したものに…

【書評】動物化するポストモダン(東浩紀)

* 動物化--ポスト神経症的欲望の到達点 かつて1960年代に一世を風靡した「構造主義」の首領にして精神分析中興の祖として知られるジャック・ラカンは人間の精神活動を「想像界」「象徴界」「現実界」という三つの位相の絡み合いの中で、その心的構造を「…

なぜ「一気」に「短期」に「完璧」になのか--人生がときめく片付けの魔法(近藤麻理恵)

*「環境」を変えることで「自分」を変える 人生がときめく片づけの魔法 改訂版 作者:近藤麻理恵 河出書房新社 Amazon 人生がときめく片づけの魔法2 改訂版 人生がときめく片づけの魔法 改訂版 作者:近藤麻理恵 河出書房新社 Amazon 我々が日々行なっている…

八正道と六波羅蜜は何がどう違うのか--寂聴仏教塾(瀬戸内寂聴)

寂聴仏教塾 (集英社文庫) 作者:瀬戸内寂聴 集英社 Amazon * 渇愛から慈悲へ 仏教では愛を二つに分けます。ひとつは「渇愛」であり、もうひとつは「慈悲」です。人間は基本的に渇愛の生き物です。渇愛とは際限なく見返りの愛を求める利己的な愛です。こうし…

【書評】現代思想入門(千葉雅也)

現代思想入門 (講談社現代新書) 作者:千葉雅也 講談社 Amazon * フランス現代思想の批判力 第二次世界大戦後、長らく思想や文化における知的流行の最先端を担ったフランス現代思想の軌跡は一般的に「構造主義からポスト・構造主義へ」という流れで理解され…

行動療法的アプローチによる仏教入門--反応しない練習(草薙龍瞬)

" data-en-clipboard="true"> 反応しない練習 あらゆる悩みが消えていくブッダの超・合理的な「考え方」 作者:草薙龍瞬 KADOKAWA Amazon " data-en-clipboard="true">*「八つの苦しみ」にどう向き合うか 我々の日常はしばし何かへの執着とか何かへのイライ…

【書評】現代の精神分析(小此木圭吾)

" data-en-clipboard="true"> 現代の精神分析 フロイトからフロイト以後へ (講談社学術文庫) 作者:小此木啓吾 講談社 Amazon " data-en-clipboard="true">* フロイト理論を読み解く6つのモデル 精神分析とは19世紀末、オーストリアの精神科医ジークムント・…

正義なき時代における正義の在り処--これからの「正義」の話をしよう(マイケル・サンデル)

" data-en-clipboard="true"> これからの「正義」の話をしよう ──いまを生き延びるための哲学 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫) 作者:マイケル・サンデル,鬼澤 忍 早川書房 Amazon " data-en-clipboard="true"> * 政治としての正義、哲学としての正義 いわ…

思い込みと真理の在り処--現象学(木田元)

" data-en-clipboard="true"> 現象学 (岩波新書) 作者:木田 元 岩波書店 Amazon " data-en-clipboard="true"> * 生成変化する現象学 現象学は当初、その創始者であるエトムント・フッサールのもとで「厳密学としての哲学」を目指して出発したはずが、いつの…

【書評】時間と自己(木村敏)

" data-en-clipboard="true"> 時間と自己 (中公新書) 作者:木村敏 発売日: 2019/10/11 メディア: Kindle版 " data-en-clipboard="true"> *「〈もの〉としての時間」と「〈こと〉としての時間」 我々の生きるこの世界は〈もの〉と〈こと〉という二つの位相か…

【書評】実存と構造(三田誠広)

実存と構造 (集英社新書) 作者:三田誠広 発売日: 2015/07/03 メディア: Kindle版 * 実存主義の萌芽 近代哲学を創建したルネ・デカルトはあらゆる存在を一旦疑うところから自らの哲学を立ち上げました。その結果、デカルトはこの世界に確実に存在していると…