かぐらかのん

本や映画の感想などを書き記していくブログです。

哲学

これから西田幾多郎に入門するためのおすすめ5冊

* 日本哲学入門(藤田正勝) 日本哲学入門 (講談社現代新書) 作者:藤田正勝 講談社 Amazon ⑴ 日本哲学のはじまりと西田幾多郎 日本における哲学の歴史は一般的にはPhilosophyを「哲学」という日本語に訳したことでも知られる西周が行った哲学講義によって始…

風景の再発見--今村夏子『あひる』

* 近代日本文学における「風景の発見」 文芸批評家の柄谷行人氏によれば日本における「風景の発見」は明治20年代に生じたとされます。もちろん自然としての風景は太古の昔から存在していましたが、ここで柄谷氏のいう「風景」とは自然物として存在する風景…

「宇宙」を切り開くということ--伊藤守『フェリックス・ガタリの思想』

* ポストメディア時代の思想家 フランスの哲学者ジル・ドゥルーズと精神分析家フェリックス・ガタリの共著『アンチ・オイディプス』(1972)は1968年にフランスで起きたいわゆる「5月革命」を駆動させた「欲望」の奔流を原理的に考察し、1970年代の大陸哲学…

Critically Queer--藤高和輝『バトラー入門』

* クィア・スタディーズとパフォーマティヴィティ 性、特にセクシュアルマイノリティに光を当てる学問分野であるクィア・スタディーズは社会的には1980年代に世界各国のゲイコミュニティが直面したHIV/AIDSという問題を受けて、学問的にはフランス現代思想…

日常の中に生じる崇高--最果タヒ『恋と誤解された夕焼け』

* いかにして現代詩と「和解」するか 詩人の渡邊十絲子氏は『今を生きるための現代詩』(2013)において自身が詩を書き始めた1980年代に比べて現代では詩というジャンルそのものが凋落の一途を辿っていることを指摘し、現代詩が敬遠される理由としてそもそ…

柳田国男の山人論からアソシエーションへ

* 柳田国男の山人論 日本民俗学の祖、柳田国男はその初期において『後狩詞記』(1909)『遠野物語』(1910)をはじめとする一連の民間伝承に関する論考を発表していますが、そこでのテーマとしているものの一つに「山人」の問題があります。ここでいう「山…

西田幾多郎と京都学派

* 西田幾多郎とは何者なのか 日本を代表する哲学者、西田幾多郎(1870年〜1945年)の前半生は意外と波乱に満ちたものとなっています。金沢の旧制四高をその校風に反発して中退した西田は、1894年に東京帝国大学の選科生(現代でいうところの聴講生)を修了…

分かり合えなさのなかで手をつなぐ--『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』

*「まどか」の名を冠するに相応しい物語 魔法少女まどか☆マギカ。新房昭之氏、虚淵玄氏、蒼樹うめ氏をはじめ、スタジオシャフト、劇団イヌカレー、梶浦由記氏といった多彩な才能のコラボレーションによって生み出された同作は2011年、東日本大震災の翌月に…

これから千葉雅也に入門するためのおすすめ5冊

* 勉強の哲学(2017年) 勉強の哲学 来たるべきバカのために 増補版 (文春文庫) 作者:千葉 雅也 文藝春秋 Amazon ⑴ 自由になるための自己破壊としての「深い勉強」 日本における現代思想シーンを牽引する哲学者の1人である千葉雅也氏はフランス現代思想にお…

言語ゲームと物語--近内悠太『利他・ケア・傷の倫理学』

* 壁と卵 2009年2月15日、村上春樹氏はエルサレム賞の受賞式において「壁と卵」という名で知られる有名なスピーチを行っています。同賞はノーベル賞への登竜門として知られる一方、時のイスラエル政府の強い影響下にある極めて政治色の強い賞としても知られ…

リズムのあいだ、あいだのリズム--千葉雅也『センスの哲学』

* 有限性の哲学--意味がある無意味と意味がない無意味 千葉雅也氏の哲学をあらわすキーワードの一つに「有限性」というものがあります。ここでいう「有限性」とは物事の「意味」と「無意味」をめぐる問題に関わっています。千葉氏は『意味がない無意味』…

これから東浩紀に入門するためのおすすめ7冊

* 訂正する力(2023年) 訂正する力 (朝日新書) 作者:東 浩紀 朝日新聞出版 Amazon ⑴「訂正可能性」から読み解く東思想 昨年、批評家デビュー30周年を迎えた東浩紀氏は1993年にかつての「ニューアカデミズム」を牽引した柄谷行人氏と浅田彰氏が編集委員を務…

人間の消滅から人間の再発明へ--客的-裏方的二重体の時代

* 人間の消滅とポスト・ヒューマニズム ポスト構造主義を代表する思想家の1人であるミシェル・フーコーは『言葉と物』(1966)において「人間の消滅」という挑発的なテーゼを提示して一躍時代の寵児としての地位を確立しました。難解な専門書にもかかわらず…

実践知としての哲学入門--東浩紀『訂正する力』

" data-en-clipboard="true"> *「訂正可能性」による日本社会のリノベーション 20世紀を代表する哲学者の1人であるルートヴィッヒ・ウィトゲンシュタインは後期の代表的著作である『哲学探究』(1953)において「人は言語を使ったゲームをルールを知らない…

「逆張り」は脱構築の夢を見るか--綿野恵太『「逆張り」の研究』

*「逆張り」の諸相 もともと「逆張り」とは株式相場の流れに逆らって売買する投資手法を指す言葉でした。例えば「投資の神様」と呼ばれるウォーレン・バフェットは逆張り(コントラリアン)で知られています。彼は2009年のリーマンショックでは経営危機に陥…

脱構築と公共性--東浩紀『訂正可能性の哲学』

* 訂正可能性--『存在論的、郵便的』の核心部 現代を代表する批評家/哲学者である東浩紀氏が1998年に世に放ったデビュー作『存在論的、郵便的』はフランスの哲学者ジャック・デリダが1970年代に書いた奇妙なテクスト群に光を当てた画期的なデリダ論として…

言語における身体性--今井むつみ・秋田喜美『言語の本質』

* 記号接地問題--AIに言語は「理解」できるのか 時に1990年前後、当時の人工知能(AI)研究に対して「記号接地問題」と呼ばれる批判が提起されました。この問題を最初に提唱した認知科学者スティーブン・ハルナッドはAIがある記号(例:りんご)を別の記…

資本主義リアリズム・再生産未来主義・それでも〈未来〉を語るということ--木澤佐登志『失われた未来を求めて』

* 資本主義リアリズムという病理 今日の現代思想シーンにおいて大きな潮流を形成する「加速主義」の代表的論客の一人としても知られるイギリスの批評家マーク・フィッシャーはその主著『資本主義リアリズム』(2009)において現代を席巻するグローバル資本…

「速さ」と「遅さ」のあいだで思考するということ--宇野常寛『砂漠と異人たち』

*「走る」ことと「書く」こと 今年6年ぶりの長編小説『街とその不確かな壁』を上梓した村上春樹氏は熱心な市民ランナーとしても知られています。時に1980年代初頭、当時30代前半だった村上氏はそれまで経営していたジャズ喫茶「ピーター・キャット」を他人…

人間と動物のあいだで思考するということ--東浩紀『観光客の哲学 増補版』

* 本質と非本質をめぐる逆説 本書は東浩紀氏が2017年に公刊した『ゲンロン0 観光客の哲学』の増補版です。周知のように『存在論的、郵便的』(1998)で日本の現代思想シーンに大きなインパクトを与え『動物化するポストモダン』(2001)によりゼロ年代批評…

これからラカン派精神分析にざっくり入門するためのおすすめ5冊

* 疾風怒濤精神分析入門(片岡一竹) 疾風怒濤精神分析入門 ジャック・ラカン的生き方のススメ 作者:片岡一竹 誠信書房 Amazon ⑴ 精神分析とは何か 精神分析とは19世紀末、オーストリアの精神科医ジークムント・フロイトが当時、謎の奇病とされたヒステリー…

1995年という原風景--千葉雅也『エレクトリック』

* 千葉哲学の原風景 昨年の読書界で大きな反響を呼んだ『現代思想入門』の著者である哲学者、千葉雅也氏の最新小説『エレクトリック』は、これまで発表された氏の小説『デッドライン』や『オーバーヒート』と共にひとつなぎの物語としても読める作品です。 …

クィア・スタディーズの基本概念とアンチ・ソーシャル的転回について

* クィア・スタディーズとLGBTQ クィア・スタディーズとは性の多様性を考察する比較的新しい学問領域であり、とりわけセクシュアルマイノリティ(性的少数者)に関する論点を多く扱います。周知の通りセクシュアルマイノリティは近年において「LGBTQ」とい…

インターネットの魔法と正義--最果タヒ『かわいいだけじゃない私たちの、かわいいだけの平凡。』

" data-en-clipboard="true"> * 最果タヒとインターネット 最果タヒ氏は2005年から思潮社の『現代詩手帖』に投稿を始め、周知の通り2007年には第一詩集『グッドモーニング』を上梓して史上最年少で中原中也賞を受賞していますが、それ以前の時期には「現代…

闇のライフハックとしての現代思想--ニック・ランドから『闇の自己啓発』へ

* 自己啓発の功罪 「自己啓発」なる言葉は当初、高度経済成長期下の労務管理の文脈において用いられていましたが、1980年代以降はニューエイジと呼ばれる精神世界と結びつき、やがて1990年代になるとオウム真理教をめぐる報道の中でそのイメージを悪化させ…

思弁的実在論と加速主義

* ポスト・ヒューマニズムの時代 14世紀のルネッサンス期に起源を持つ「ヒューマニズム」という言葉は、これまで「人文主義」や「人道主義」や「人間中心主義」などといった微妙に異なるニュアンスで用いられてきましたが、いずれにせよ「ヒューマニズム」…

これから現代思想にざっくり入門するためのおすすめ5冊

* 現代思想入門(千葉雅也) 現代思想入門 (講談社現代新書) 作者:千葉雅也 講談社 Amazon ⑴ 今なぜ現代思想か 最近「現代思想」がちょっとしたブームのようです。おそらくそのきっかけとなったのは気鋭の哲学者、千葉雅也氏が昨年3月に公刊した『現代思想…

実存・自由・ヒューマニズム--嘔吐(ジャン=ポール・サルトル)

" data-en-clipboard="true"> * 実存主義とは何か? 1945年5月7日、ドイツが無条件降伏を受諾したことでヨーロッパにおける第二次世界大戦は終結しました。当時のフランスでは戦争が終わったという解放感と社会全体に希望を見出せない不安感が奇妙に入り混…

パラノ・ドライブとスキゾ・キッズ

" data-en-clipboard="true"> * ニュー・アカデミズムの起爆剤としての「構造と力」 日本経済が空前のバブル景気へ向かいつつあった1983年9月、勁草書房という人文系出版社から一冊の本が出版されました。タイトルは「構造と力」。著者は浅田彰。当時、京都…

50年目のアンチ・オイディプス

* 二人で書くということ 「(ジル・ドゥルーズ)2年半ほど前のことになりますが、私はフェリックスと出会いました。フェリックスは、私が自分よりも先を行っていると感じていたし、何かを期待していた。私には精神分析家のような責任もなければ、精神分析を…