かぐらかのん

本や映画の感想などを書き記していくブログです。

哲学

【書評】実存と構造(三田誠広)

実存と構造 (集英社新書) 作者:三田誠広 発売日: 2015/07/03 メディア: Kindle版 * 実存主義の萌芽 近代哲学を創建したルネ・デカルトはあらゆる存在を一旦疑うところから自らの哲学を立ち上げました。その結果、デカルトはこの世界に確実に存在していると…

「誤配」に満ちた「私小説」--ゲンロン戦記(東浩紀)

ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる (中公新書ラクレ) 作者:東浩紀 発売日: 2020/12/11 メディア: Kindle版 *「誤配」の実践拠点 東浩紀氏はその鮮烈なデビュー作「存在論的、郵便的(1998)」において、フランスの哲学者、ジャック・デリダのある時期にお…

【書評】デリダ 脱構築と正義(高橋哲哉)

" data-en-clipboard="true"> デリダ 脱構築と正義 (講談社学術文庫) 作者:高橋哲哉 発売日: 2016/09/16 メディア: Kindle版 " data-en-clipboard="true">* 形而上学と反-哲学 西洋哲学史はプラトン哲学の註釈史であるという有名な言葉があります。西洋哲学…

存在の問いと生の在り処--「ハイデガー『存在と時間』入門(轟孝夫)」

" data-en-clipboard="true"> ハイデガー『存在と時間』入門 (講談社現代新書) 作者:轟孝夫 発売日: 2017/07/28 メディア: Kindle版 " data-en-clipboard="true">* 未完の欠陥商品 そのいかにも哲学書然とした荘厳なタイトルに重厚な記述。「20世紀最大の哲…

価値を変える知の考古学--「ミシェル・フーコー 近代を裏から読む(重田園江)」

ミシェル・フーコー ――近代を裏から読む (ちくま新書)作者:重田園江発売日: 2014/01/31メディア: Kindle版 * フーコー愛に溢れた一冊 人は知らず知らずのうちにある種の固定観念で世界を捉えます。その固定観念の枠内にいる限り、時としてその世界は非常に…

【書評】わたしの哲学入門(木田元)

わたしの哲学入門 (講談社学術文庫) 作者:木田元 発売日: 2014/05/23 メディア: Kindle版 * 哲学の〈難しさ〉の正体 哲学とはなにか?これ自体が一つの哲学的問いであり、哲学とは今ひとつ実体のはっきりしないわけのわからない領域と言えます。にも関わら…

「あたりまえ」を解体する実践知--「フランス現代思想史(岡本裕一朗)」

フランス現代思想史 構造主義からデリダ以後へ (中公新書) 作者:岡本裕一朗 発売日: 2019/03/15 メディア: Kindle版 * ソーカル事件 「ソーカル事件」というものをご存知でしょうか?1995年、ニューヨーク大学の物理学教授、アラン・ソーカルは、いわゆる「…

悦びと生成変化のあいだ--「ドゥルーズ 流動の哲学(宇野邦一)」

ドゥルーズ 流動の哲学 [増補改訂] (講談社学術文庫) 作者:宇野邦一 発売日: 2020/02/10 メディア: Kindle版 * バランスの良いドゥルーズ哲学入門書 1960年代、フランス現代思想のトレンドは「実存主義」から「構造主義」へと変遷しました。レヴィ=スト…

「憐れみ」によって手を取り合うということ--「テーマパーク化する地球(東浩紀)」

テーマパーク化する地球 ゲンロン叢書 作者:東 浩紀 発売日: 2019/06/14 メディア: Kindle版 *「観光客の哲学」の舞台裏あるいは実践録 1990年代後半以降、日本社会においては「大きな物語」の失墜と呼ばれるポストモダン状況がより加速したと言われていま…

環境の外側に立つということ--人はみな妄想する-ジャック・ラカンと鑑別診断の思想-(松本卓也)

人はみな妄想する -ジャック・ラカンと鑑別診断の思想- 作者:松本卓也 発売日: 2015/04/24 メディア: 単行本 * 実存主義から構造主義へ 1960年代、フランス現代思想のトレンドは「実存主義」から「構造主義」へと変遷しました。ジャン=ポール・サルトルに…

二層構造の時代における新たな公共性--「哲学の誤配(東浩紀)」

哲学の誤配 ゲンロン叢書 作者:東 浩紀 メディア: Kindle版 * 二層構造の時代における哲学 1994年、かつての「ニューアカデミズム」を牽引した浅田彰氏と柄谷行人氏が編集委員を務める「批評空間」第Ⅱ期第3号に「幽霊に憑かれる哲学--デリダ試論」と題さ…

対話による「新しい現実」の創出--「オープンダイアローグがひらく精神医療(斎藤環)」

オープンダイアローグがひらく精神医療 作者:斎藤 環 発売日: 2019/08/23 メディア: Kindle版 * オープンダイアローグとは何か フィンランドの西ラップランド地方トルニオ市にあるケロプダス病院のスタッフを中心に開発された「オープンダイアローグ(OD)…

イロニーからユーモアへの折り返し--「動きすぎてはいけない(千葉雅也)」

動きすぎてはいけない ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学 (河出文庫) 作者:千葉雅也 発売日: 2017/09/15 メディア: Kindle版 * 生成変化の哲学 1960年代、フランス現代思想のトレンドは「実存主義」から「構造主義」へと変遷しました。実存主義とはジャン=…

「思考する快楽」としての勉強--「勉強の哲学(千葉雅也)」

勉強の哲学 来たるべきバカのために 増補版 (文春文庫) 作者:千葉 雅也 発売日: 2020/03/10 メディア: Kindle版 * 「勉強」と「生活」は表裏の関係 我々は社会生活を送る上で多かれ少なかれ「勉強」をしています。入学試験や資格試験など、わかりやすい「勉…

「空気」の外側に立つということ--「原子力時代における哲学(國分功一郎)」

原子力時代における哲学 作者:國分功一郎 発売日: 2019/10/04 メディア: Kindle版 * 「Atoms for Peace」 1950年代とはいうまでもなく「核兵器の恐怖」が世界を支配した時代でした。1949年にはアメリカに続き旧ソ連も原爆を保有したことが公にされ、これに…

幸福の彼方と此方--「創造と狂気の歴史(松本卓也)」

創造と狂気の歴史 プラトンからドゥルーズまで (講談社選書メチエ) 作者:松本卓也 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2019/03/12 メディア: Kindle版 * 「創造と狂気」の関係を問う 優れた芸術作品やイノベーションがしばし「クレイジー」と形容されるように…

【書評】意味がない無意味(千葉雅也)

意味がない無意味 作者:千葉雅也 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2018/10/26 メディア: 単行本 * 〈意味がある無意味〉と〈意味がない無意味〉 「勉強の哲学」で一世を風靡したかと思えば「デッドライン」で野間文芸新人賞を受賞。自己啓発本から文…

「二層構造の時代」を生きるということ--観光客の哲学(東浩紀)

ゲンロン0 観光客の哲学 作者: 東浩紀 出版社/メーカー: 株式会社ゲンロン 発売日: 2017/12/11 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る * 「観光客」とは何か かつての「オタクの批評家・東浩紀」というイメージからはなんとも程遠いタイトルですが…

いまだにフロイトが読まれるべき理由--フロイト入門(中山元)

* なぜいまフロイトなのか? 我々は自らを理性ある存在として「我思う、故に我あり」とデカルト的に自分自身を理解する一方、思わぬ言い間違い、見たくもない悪夢、そして不安、恐怖、強迫観念といった神経症的症状といった、まさしく「何者か」によって「…

【書評】疾風怒濤精神分析入門(片岡一竹)

bookmeter.com 疾風怒濤精神分析入門:ジャック・ラカン的生き方のススメ 感想 片岡 一竹 - 読書メーター 衒学的な理論と独特な語り口で、精神分析のみならず現代思想の領域においてもカリスマ的人気を誇るジャック・ラカン。死後40年近く経った今でも、毎年…

【書評】精神分析の四基本概念(ジャック・ラカン)

ジャック・ラカン 精神分析の四基本概念 作者:ジャック ラカン 岩波書店 Amazon 衒学性に満ちた難解奇抜な理論と人を煙に巻くような独特な語り口にもかかわらず、精神分析のみならず現代思想の領域においても未だにカリスマ的人気を誇るジャック・ラカン。そ…

構造主義をまとめて横断的にざっくりと知ることができる一冊--寝ながら学べる構造主義(内田樹)

現代思想系の記事や、アニメの批評記事なんか読んでると、たまに何気に出てきませんか?「構造主義」っていう言葉。なんとなくわかるようでよくわからないモヤモヤ感がありますよね。 構造主義は、実存主義との対比という文脈で語られることが多く、その場合…

自閉症圏への精神分析的アプローチの可能性を探る--発達障害の時代とラカン派精神分析

自閉症というカテゴリーについては、かつてはスキゾフレニー(破瓜型統合失調症)の早期発症、あるいは精神遅滞と混同されていた時代もありましたが、時代の変遷と共にこれらから切り離され独自の領野を形成してきたという歴史があるわけです。 自閉症を特徴…

「引きこもり」とラカン的〈他者〉の欲望--引きこもりはなぜ「治る」のか?(斎藤環)

本書は引きこもりの臨床という極めて限定した領域を扱った本と見せかけて、普通の対人関係においても活用できることが多く書かれており、実用書的な価値も高いです。 また具体的な臨床実践を通じた精神分析理論のガイダンス本としても読めるので、精神分析っ…

我々はいつも理解しようとするから誤解する--精神分析技法の基礎(ブルース・フィンク)

本書はラカン派精神分析の臨床技法を扱ったものです。そういうと、なんかものすごく専門的な狭い領域のように思えますけど、「臨床」っていうのはつまるところ、人と人の関係する場を言うのであって、精神分析やカウンセリングの場にとどまらず、日常的なコ…

脳科学時代のアンチテーゼとしての精神分析理論--考える足ー『脳の時代』の精神分析(向井雅明)

メンタルヘルスの諸問題につき、何かにつけ「脳科学的には・・・」といえば、なんとなく納得してしまう昨今の風潮ではあります。 本書の言うところの「脳中心主義」とはすべてのこころの問題は脳の構造によって決定されているかの如き説明です。例えば、統合…

深夜アニメのキャラはなぜ目が大きく鼻が小さいのか--人形愛の精神分析(藤田博史)

人形を題材とした身体フェティシズム論というなかなか読み手を選ぶ一冊。表紙からしてフェティシズム感全開で実に素晴らしい。著者は精神分析家兼整形外科医。目、口、鼻、耳といった身体各部のパーツに対してラカン派精神分析の観点からの考察が変幻自在に…

ラカンをもってラカンを読む--ラカン入門(向井雅明)

「入門」とは銘打っているものの、初心者には難しいです。なんかラカンってサブカル評論でよく出てくる名前だし、さくっと全体像だけ掴みたいな的なニーズには向かない本かもしれません。 もちろんそれだけ濃密な内容ということなので、一通りの全体像を見渡…

位相のズレた3つのセカイ--生き延びるためのラカン(斎藤環)

自称「日本一わかりやすいラカン入門書」。多分その看板にそこまで偽りはないと思いますが、何年も前の本ですし、いまさらこんなところで初学者が書評めいたことを書いてもどうかと思いますので、現時点での私的なラカン理解をノート風にまとめておきたいと…