かぐらかのん

本や映画の感想などを書き記していくブログです。

2023-08-01から1ヶ月間の記事一覧

母性をめぐるふたつの生--映画『君たちはどう生きるか』試論

* 賛否が二極化した映画 1937年8月に公刊された吉野源三郎氏の著書『君たちはどう生きるか』は作家の山本有三らが中心となって編集した「日本少国民文庫」という全16巻からなる子供向け教養叢書の最終巻であり、同文庫の編集主任も務めた吉野氏は戦後、岩波…

コンステレーションと物語--大江健三郎『ヒロシマ・ノート』

* 原水爆禁止運動の起源と変容--本書の成立背景 1954年3月にマーシャル諸島ビキニ環礁で行われた米国の水爆実験「キャッスル作戦(ブラボー実験)」によって当時「死の灰」と呼ばれた大量の放射性降下物を焼津漁港所属のマグロ漁船、第五福竜丸の乗組員が…

「速さ」と「遅さ」のあいだで思考するということ--宇野常寛『砂漠と異人たち』

*「走る」ことと「書く」こと 今年6年ぶりの長編小説『街とその不確かな壁』を上梓した村上春樹氏は熱心な市民ランナーとしても知られています。時に1980年代初頭、当時30代前半だった村上氏はそれまで経営していたジャズ喫茶「ピーター・キャット」を他人…