2026-01-01から1年間の記事一覧
* イェルサレムのアイヒマン 20世紀を代表する政治哲学者、ハンナ・アーレントには1963年に公刊した『イェルサレムのアイヒマン』という大変有名な著作があります。ここでいう「アイヒマン」とは、ナチスの戦犯であるアドルフ・アイヒマンのことです。アイ…
* 戦後民主主義と花森安治 山本昭宏氏は『戦後民主主義』(2021)において日本における戦後民主主義を次のように総括しています。「戦後民主主義」の前提にあるのは当たり前ですが「民主主義」です。ここでいう「民主主義」における「民」とは誰のことを指…
* 戦後民主主義の到達点 國分功一郎氏は新著『天皇への敗北』(2026)において戦後憲法学を切り口として日本の戦後民主主義を論じています。同書はその冒頭で日本を代表する憲法学者樋口陽一氏の言葉を引き、戦後日本の憲法学者たちは単に憲法の専門家であ…
* リトル・ピープルと母性のディストピア 現代を代表する批評家の一人である宇野常寛氏は『リトル・ピープルの時代』(2011)において村上春樹氏が2009年にエルサレム賞の授賞式で行った「壁と卵」と呼ばれるスピーチにおける「高くて、固い壁があり、それ…
* 分極化の時代における哲学の使命 西洋哲学の起源は古代ギリシャに遡ります。プラトンやアリストテレスといった古代ギリシャの哲学者は「普遍とは何か」について考えました。この「普遍とは何か」という問いは中世のキリスト教神学に影響を与え「神(普遍…
* 加速主義〈増補新版〉ニック・ランドと新反動主義(木澤佐登志) 加速主義 増補新版 ニック・ランドと新反動主義 (星海社 e-SHINSHO) 作者:木澤佐登志 講談社 Amazon ⑴ 異色の哲学者 近年、テクノロジー関連の言説、現代思想の領域、さらには政治的な議論…
* セカイ系の現在地 ゼロ年代における文芸批評シーンを賑わした「セカイ系」という言葉の出自は2002年10月31日に「ぷるにえブックマーク」というウェブサイトの管理人だった「ぷるにえ」という人物の執筆した「セカイ系って結局何なのよ」という掲示板のス…
*「一人であること」と現代情報環境 20世紀を代表する政治哲学者ハンナ・アーレントは「一人であること」を〈孤立 isolation〉と〈孤独 solitude〉と〈寂しさ loneliness〉という三つの様式に分けて論じています。ここでいう〈孤立〉とは何かに集中して取り…
* ヴォイスからイグジットへ 2012年、オンライン上に「暗黒啓蒙 The Dark Enlightenment」と題された長大な論考が発表されました。著者はイギリスの哲学者ニック・ランド。その第1章「新反動主義者はイグジットを目指す」の中でランドは電子決済サービスPay…
* ドゥルーズ哲学の実践としての『シネマ』 20世紀を代表する哲学者の1人であるジル・ドゥルーズの仕事は哲学にとどまらず、精神分析、文学、絵画、映画といった諸領域を変幻自在に横断するものであり、そこではさまざまな革新的な概念が創出されることにな…
* 加速主義の系譜 近年、テクノロジー関連の言説、現代思想の領域、さらには政治的な議論において「加速主義 Accelerationism」という言葉がよく見受けられるようになりました。この「加速主義」を大まかに定義するとすれば「現存する社会システム、特に資…
* アルゴリズムは公正で信頼できるのか 我々が日常的によく使う検索エンジンやソーシャルメディア、レビューサイト、動画共有サイトといったインターネットのプラットフォームは「アルゴリズム」で動作しているという言い方がよくされます。この「アルゴリ…
* 日本国憲法と戦後民主主義 1945年8月15日、日本政府のポツダム宣言受諾を伝える玉音放送によって太平洋戦争が事実上終結します。連合軍の占領と改革に対する人々の不安が渦巻く中、8月12日には占領軍の先遣隊が厚木に到着し、続いて30日には連合国軍最高…
*「正常」と「異常」を問い直す 17世紀においてルネ・デカルトが立ち上げた「我思う、故に我あり」という近代的な「主体」は絶えず変化する不確かな感覚に対して「不変のもの」「確実なもの」としての思考する実体として描かれました。すなわちそれは、環境…
* なぜ働いていると本が読めなくなるのか(2024年) なぜ働いていると本が読めなくなるのか (集英社新書) 作者:三宅香帆 集英社 Amazon ⑴ 読書の起源と拡大 令和の世に彗星の如く現れた文芸評論家、三宅香帆氏はベストセラーとなった本書『なぜ働いていると…
* 消費と浪費 國分功一郎氏はベストセラーとなった哲学書『暇と退屈の倫理学』(2011)においてフランスの思想家ジャン・ボードリヤールの議論をベースとして消費社会がなぜ「退屈」をもたらすのかを論じています。消費社会において人間は資本主義によって…
* 柳宗悦と民藝運動 明治期の日本において日本美術の振興に尽力したことで知られる岡倉天心は1903年に行った「美術家の覚悟」という講演において芸術家の意義につき「古来東西の美術家は、彼の宗教家の如く、又た文学者の如くに、自ら文明の先駆となりて一…
* 全体主義の起源から人間の条件へ 今年生誕120周年を迎えたハンナ・アーレントは1906年、ドイツのハノーバーでユダヤ系の中産階級の家庭に生まれ、マールブルク大学でマルティン・ハイデガー、ハイデルベルク大学でカール・ヤスパースという錚々たる面々に…
* 丁寧な暮らしではなくても 2020年1月に発売された『暮しの手帖』の表紙に大書された「丁寧な暮らしではなくても」というフレーズは当時、読者をはじめとして業界に少なからぬインパクトを与えたそうです。1948年に創刊された同誌は昭和の一時期には販売部…
* 中動態からみた「悪の愚かさ」 『暇と退屈の倫理学』(2011)で知られる國分功一郎氏はもう一つの代表作である『中動態の世界--意志と責任の考古学』(2017)においてかつて言語に存在し、今や喪われた「中動態 middle voice」に注目することで「意志」…
* 観光客と訂正可能性から考える平和論 日本における現代思想の古典的名著『動物化するポストモダン』(2001)で知られる批評家の東浩紀氏は近年において「観光客」と「訂正可能性」という概念を軸にした哲学を展開しています。氏は『観光客の哲学』(2017…
* レコードの魅力とは何か 音を記録、再生する技術は1877年にトーマス・エジソンが発明した蓄音機に始まり、エミール・ベルリナーによって円盤式レコードが開発されてからは音楽の大量複製と流通が可能となります。もっとも20世紀前半に普及したSP(Standar…
* データベース消費の現在地 ゼロ年代を代表する批評家である東浩紀氏はその代名詞的著作である『動物化するポストモダン』(2001)において近代的な「大きな物語」が機能不全となった現代ポストモダンにおける個人の消費行動を「物語消費」から「データベ…
* 承認の時代における「主人公」 2024年本屋大賞受賞作『成瀬は天下を取りに行く』(2023)は歴代本屋大賞受賞作の中でも極めて異色な作品であったように思えます。同作は滋賀県大津市を舞台に主人公である成瀬あかりの中学2年生の夏から高校3年生の夏まで…