本書はハインツ・コフートの自己心理学の入門としては現時点での決定版ではないでしょうか。和田先生はコフートの入門書を何冊か著されていますが、本書はともかく実践に重きが置かれている。人を褒めるのに苦手意識を感じる人へお勧めです。
「褒めてはいけない」「嫌われる勇気を持て」と常に逆説的なアドラーとは対照的に、コフート理論の全体は「褒めると人は輝く」「そして、その輝きはあなたに返ってくる」という極めて明快なメッセージで貫かれており、そこに素直に共鳴できる人は多いと思います。
コフートは人間は本質的に「依存」を必要とする生き物だと考えます。コフートは幸せの尺度として地位や経済力などの客観的基準よりも「自己」という一人一人がそれぞれ感じている主観的な世界観が充実しているかどうかを重んじ、「自己」の充実のためには「鏡」「理想」「双子」といった「自己対象」に依存する必要があるということです。
では、どうすれば誰かに自己対象になってもらうのか。それは「与えよ、さらば与えられん」という新約聖書の言葉の通り、自分から心を開いて誰かの自己対象になってあげればいい、というわけです。
つまり、自分を褒めてくれる鏡が欲しければ、自分も誰かの鏡になって褒めてあげるということである。相手の心理ニーズを満たしてあげる。
もちろん「褒める」とは単純に「おだてる」ということではありません。相手が褒められたいと思うポイント、つまり心理ニーズを適切に把握することが大事になってきます。
コフートのいう「共感」とは、この「相手がどういう心理ニーズを持っているか」を知る道具として位置付けられます。
例えば、明らかにかわいい女の子に普通に「かわいいね」といってみたところで、そういうニーズは彼女の中で既にさんざん満たされているであろうから、相手も別に感動してくれないわけです。
ところがその人が普段あまり言われていないようなことーーー例えば「あなたは可愛くて、その上に繊細な気配りもできるんですね」ーーーを言ってみると相手はビックリするでしょう。
また、相手の小さな変化に気付いてあげたり、相手が自分の「欠点」だと思っていることを「美点」として褒めるてみると、リフレイミング効果が起きますので、これも大変効果的だと思います。
いずれにせよ、相手のことを結果的に理解できたかできないかが重要ではなく「一生懸命、理解したい」とするその姿勢自体が人間関係に変化をもたらすのではないでしょうか。
こうして、コフートの考える理想的な人間関係における理想的なゴールはお互いが「自己対象」となり、心理ニーズを満たし合う「相互依存関係」となります。
従って、たとえ「褒め言葉」でもその意味作用が「尊敬・感謝」であれば、それは「勇気づけ」として作用することになるでしょう。