かぐらかのん

本や映画の感想などを書き記していくブログです。

文芸

戦後文学における「日常」の発見--夕べの雲(庄野潤三)

" data-en-clipboard="true"> " id="第三の新人とは何か">* 第三の新人とは何か 戦後の日本文学史はまず終戦直後の時期に登場した第一次・第二次からなる「戦後派」と呼ばれる作家達が現れるところから始まります。先の昭和20年の敗戦は日本文学において私…

終わりなき日常と終わりある日常

" data-en-clipboard="true"> " id="終わりなき日常特異点としての1995年">* 終わりなき日常--特異点としての1995年 阪神大震災と地下鉄サリン事件に象徴される1995年は奇しくも戦後50年を迎えた日本社会においてポストモダン状況がより一層加速した年と…

思春期における異界体験と自己実現の逆説--猫物語(白)/傾物語/花物語/囮物語/鬼物語/恋物語(西尾維新)

" data-en-clipboard="true"> " id="思春期における異界体験">* 思春期における異界体験 人は通常その発達過程で世界を「見えるもの」だけで囲い込み「見えないもの」を切り捨てていきます。けれどもその一方で切り捨てられた「見えないもの」はしばし「異…

戦後日本史における第三者の審級

* 現実と反現実 我々の生きる「現実」とは、何らかの「現実ならざるもの」を参照した「意味の秩序」として構成されています。この「現実ならざるもの」を社会学では「反現実」と呼びます。この点、戦後社会学を牽引した見田宗介氏によれば「現実」という言…

日本文学における実存と構造

" data-en-clipboard="true"> " id="実存主義の起源">* 実存主義の起源 「実存主義」とはいわば「哲学への叛逆」から始まりました。周知の通り、古代ギリシアにおいてソクラテスによって創始された「哲学」なる営為は、その後継者であるプラトンとアリスト…

非意味的なコミュニケーションがもたらすもの--映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ

" data-en-clipboard="true"> " id="その人だけのもやもやとした感情に名前をつけること">* その人だけのもやもやとした感情に、名前をつけること 最果タヒさんの詩は何というのか、言葉の手前にある「過剰な何か」を救い出そうとしているように思えます。…

自然主義的現実とデータベース的現実

" data-en-clipboard="true"> " id="風景の発見と内面の発見">* 風景の発見と内面の発見 柄谷行人氏は「近代日本文学の起源(1980)」において、近代文学におけるリアリズムとは「風景の発見」と「内面の発見」によって支えられているといいます。 日本近代…

最終兵器に花束を--世界の果てには君と二人で(高橋しん)

" data-en-clipboard="true"> " id="戦後日本的なアイロニズムとしてのセカイ系">* 戦後日本的なアイロニズムとしての「セカイ系」 戦後日本を代表する批評家である江藤淳氏は、その主著「成熟と喪失」において当時の文学的潮流のひとつを成していた「第三…

「よその家の事情」に向き合うということ--夕凪の街 桜の国(こうの史代)

" data-en-clipboard="true"> " id="昭和20年8月6日午前8時15分">* 昭和20年8月6日午前8時15分 その時、アメリカ合衆国の戦略爆撃機B29エノラ・ゲイ号から投下された原子爆弾リトル・ボーイは広島市の高度567メートルの上空で炸裂し、晴れ渡った夏の空に巨…

〈一者〉の享楽と発達障害--こちらあみ子(今村夏子)

" data-en-clipboard="true"> こちらあみ子 (ちくま文庫) 作者:今村夏子 筑摩書房 Amazon " data-en-clipboard="true">*〈一者〉の享楽と〈他者〉の欲望 多くの人はそれぞれ、その人だけの「特異性」をもった存在として「一般性」の中で折り合いをつけなが…

様々な「正義」の泡立ちの中で--流浪の月(凪良ゆう)

" data-en-clipboard="true"> 流浪の月 (創元文芸文庫) 作者:凪良 ゆう 東京創元社 Amazon " data-en-clipboard="true"> *「常識」という名の予断と偏見 言うまでもなく小説には「語り手」が必要です。読者はあくまで語り手の描写や解説を通じて小説世界内…

村上春樹作品における母的ヒロインと娘的ヒロイン--女のいない男たち(村上春樹)

* 性別化の式とファルス関数 精神分析における「男性」とは基本的に「去勢」された存在であるとされています。この点、フランスの精神分析家、ジャック・ラカンはその晩年において次のような「性別化の式」と呼ばれる男女のセクシュアリティに関する図式を…

【書評】成熟と喪失(江藤淳)

* 戦後派文学から第三の新人へ 昭和20年8月15日、約3年9ヶ月にわたる太平洋戦争は連合国に対する日本の無条件降伏によって終結しました。その後、GHQによる占領諸政策の下、終戦から昭和20年末までの僅か4ヶ月半の間で、日本国内における主要な論調は「皇国…

リトル・ピープルにおける正義の記述法--傷物語/偽物語/猫物語(黒)(西尾維新)

" data-en-clipboard="true"> " data-en-clipboard="true">*「壁と卵」から考える 2009年2月15日、村上春樹氏はエルサレム賞の受賞式において「壁と卵」という名で知られる有名なスピーチを行っています。ここでいう「壁」とは「システム」であり「卵」とは…

二人のアリス--カードキャプターさくら クリアカード編1〜12(CLAMP)

" data-en-clipboard="true"> カードキャプターさくら クリアカード編(12) (なかよしコミックス) 作者:CLAMP 講談社 Amazon " data-en-clipboard="true">* 百合的な対幻想 大正期に確立した「少女小説」というジャンルは、旧来的な家父長制社会を…

データベース文学の先駆けとしてのアリスの物語--ふしぎの国のアリス/かがみの国のアリス(ルイス・キャロル/訳:河合祥一郎)

" data-en-clipboard="true"> 新訳 ふしぎの国のアリス (角川つばさ文庫) 作者:ルイス・キャロル,河合 祥一郎,okama KADOKAWA Amazon 新訳 かがみの国のアリス (角川つばさ文庫) 作者:ルイス・キャロル,河合 祥一郎,okama KADOKAWA Amazon " data-…

無敵の未来へ向かって--3月のライオン(羽海野チカ)

" data-en-clipboard="true"> 3月のライオン 1 (ジェッツコミックス) 作者:羽海野チカ 白泉社 Amazon 3月のライオン 14 (ヤングアニマルコミックス) 作者:羽海野チカ 白泉社 Amazon 3月のライオン 16 (ヤングアニマルコミックス) 作者:羽海野チカ 白泉社 Ama…

自我と影の統合--空の境界(奈須きのこ)

" data-en-clipboard="true"> 空の境界(上) (講談社文庫) 作者:奈須きのこ 講談社 Amazon 空の境界(中) (講談社文庫) 作者:奈須きのこ 講談社 Amazon 空の境界(下) (講談社文庫) 作者:奈須きのこ 講談社 Amazon " data-en-clipboard="true">* ゼロ年…

「つながり」と「つながりの外部」--ゆるキャン△(あfろ)

" data-en-clipboard="true"> ゆるキャン△ 1巻 (まんがタイムKRコミックス) 作者:あfろ 芳文社 Amazon ゆるキャン△ 12巻 (まんがタイムKRコミックス) 作者:あfろ 芳文社 Amazon " data-en-clipboard="true">* 強い絆と弱い絆 東浩紀氏は「弱いつながり…

「推し」という名のリトルネロ--推し、燃ゆ(宇佐見りん)

" data-en-clipboard="true"> 推し、燃ゆ 作者:宇佐見りん 河出書房新社 Amazon " data-en-clipboard="true">* 間主観的な欲望と別の仕方での欲望 フランスの精神分析家ジャック・ラカンは「人の欲望は他者の欲望である」という有名なテーゼを提出していま…

現代文学のリアリズムと思春期における異界体験--化物語(西尾維新)

化物語(上) 作者:西尾維新 講談社 Amazon 化物語(中) 作者:西尾維新 講談社 Amazon 化物語(下) 作者:西尾維新 講談社 Amazon * 自然主義的リアリズムとまんが・アニメ的リアリズム 日本は明治期に「言文一致体」を導入し近代文学の歴史を開きました。…

器としての言葉--きみの言い訳は最高の芸術(最果タヒ)

きみの言い訳は最高の芸術 (河出文庫) 作者:最果タヒ 河出書房新社 Amazon * 言葉には幽霊が取り憑いてる フランス現代思想史において「ポスト・構造主義」の代表的論客と目される哲学者、ジャック・デリダは「エクリチュール」には「幽霊」が取り憑いてい…

【書評】52ヘルツのクジラたち(町田そのこ)

52ヘルツのクジラたち 作者:町田そのこ 中央公論新社 Amazon * 世界でもっとも孤独なクジラ ある種のクジラは「歌」によって個体同士のコミュニケーションを取る事で知られています。海洋生物学者のロジャー・ペインが1970年に発表した「ザトウクジラの歌」…

「泣き」の地平の先にあるもの--猫狩り族の長(麻枝准)

" data-en-clipboard="true"> 猫狩り族の長 作者:麻枝准 講談社 Amazon " data-en-clipboard="true">* 美少女ゲーム的「泣き」の呪縛からの解放 本作は「泣きゲー」の第一人者、麻枝准氏の手による初の長編小説です。麻枝准氏といえば主にゲームブランドKey…

二次創作としての家族の物語--そして、バトンは渡された(瀬尾まいこ)

そして、バトンは渡された (文春文庫) 作者:瀬尾 まいこ 文藝春秋 Amazon * シュミラークルとデータベース 現代を代表する批評家の一人である東浩紀氏はその主著「動物化するポストモダン(2001)」において、ポストモダンの特徴の一つとしてとして「シュミ…

他人の物語と自分の物語--燃えよ剣(司馬遼太郎)

" data-en-clipboard="true"> 燃えよ剣(上) 作者:司馬遼太郎 文藝春秋 Amazon 燃えよ剣(下) 作者:司馬遼太郎 文藝春秋 Amazon " data-en-clipboard="true">* 幕末という時代と新撰組 嘉永6年(1853年)6月、アメリカ合衆国東インド艦隊提督マシュー・C…

【書評】木になった亜沙(今村夏子)

" data-en-clipboard="true"> 木になった亜沙 (文春e-book) 作者:今村 夏子 文藝春秋 Amazon " data-en-clipboard="true"> *「自明」を失ったものとして立ち現れる世界 我々が世界に棲まうことができているのは畢竟、我々にとって世界が「自明」なものとし…

【書評】文学部唯野教授(筒井康隆)

" data-en-clipboard="true"> 文学部唯野教授 (岩波現代文庫) 作者:筒井 康隆 岩波書店 Amazon " data-en-clipboard="true">* ドラマと講義で読み解く「文学とは何か」 イギリスの批評家、テリー・イーグルトンの「文学とは何か」は、現代文学理論の優れた…

日常系の臨界としての異性愛--微熱空間(蒼樹うめ)

" data-en-clipboard="true"> 微熱空間 1 (楽園コミックス) 作者:蒼樹うめ 白泉社 Amazon 微熱空間 4 (楽園コミックス) 作者:蒼樹うめ 白泉社 Amazon " data-en-clipboard="true">* 日常系の象徴としてのひだまりスケッチ 「日常系」とはゼロ年代的想像力の…

【書評】日本近代文学の起源(柄谷行人)

" data-en-clipboard="true"> 日本近代文学の起源 原本 (講談社文芸文庫) 作者:柄谷行人 講談社 Amazon " data-en-clipboard="true"> *「言文一致」とはなんだったのか 我々はふつう自由な「内面」を持った主体として、この世界をありのままの「風景」とし…