かぐらかのん

本や映画の感想などを書き記していくブログです。

文芸

【書評】日本近代文学の起源(柄谷行人)

" data-en-clipboard="true"> 日本近代文学の起源 原本 (講談社文芸文庫) 作者:柄谷行人 講談社 Amazon " data-en-clipboard="true"> *「言文一致」とはなんだったのか 我々はふつう自由な「内面」を持った主体として、この世界をありのままの「風景」とし…

幻想から現実へ--海辺のカフカ(村上春樹)

海辺のカフカ(上)(新潮文庫) 作者:村上春樹 新潮社 Amazon 海辺のカフカ(下)(新潮文庫) 作者:村上春樹 新潮社 Amazon * 近代教養小説的成熟と「別の仕方」での成熟 夏目漱石の中編に「坑夫」という作品があります。恋愛沙汰のゴタゴタの末、すっか…

【書評】ねじまき鳥クロニクル(村上春樹)

" data-en-clipboard="true"> ねじまき鳥クロニクル―第1部 泥棒かささぎ編―(新潮文庫) 作者:村上春樹 新潮社 Amazon ねじまき鳥クロニクル―第2部 予言する鳥編―(新潮文庫) 作者:村上春樹 新潮社 Amazon ねじまき鳥クロニクル―第3部 鳥刺し男編―(新潮…

幻想を横断していくということ--空電の姫君(冬目景)

" data-en-clipboard="true"> 空電の姫君(1) (イブニングコミックス) 作者:冬目景 講談社 Amazon 空電の姫君(2) (イブニングコミックス) 作者:冬目景 講談社 Amazon 空電の姫君(3) (イブニングコミックス) 作者:冬目景 講談社 Amazon " data-en-cli…

コミットメント過剰の時代における倫理としてのデタッチメント--世界のおわりとハードボイルド・ワンダーランド(村上春樹)

" data-en-clipboard="true"> 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(上)(新潮文庫) 作者:村上春樹 新潮社 Amazon 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(下)(新潮文庫) 作者:村上春樹 新潮社 Amazon " data-en-clipboard="true">* ビ…

ていねいに日常を生きるということ--カードキャプターさくらクリアカード編・1〜10(CLAMP)

カードキャプターさくら クリアカード編(10) (なかよしコミックス) 作者:CLAMP 発売日: 2021/04/01 メディア: Kindle版 * 思春期における少女の物語 人は自らの生を世界の中に基礎付けるため、その人なりの内的幻想である「物語」を必要とします。…

【書評】実存と構造(三田誠広)

実存と構造 (集英社新書) 作者:三田誠広 発売日: 2015/07/03 メディア: Kindle版 * 実存主義の萌芽 近代哲学を創建したルネ・デカルトはあらゆる存在を一旦疑うところから自らの哲学を立ち上げました。その結果、デカルトはこの世界に確実に存在していると…

「誤配」に満ちた「私小説」--ゲンロン戦記(東浩紀)

ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる (中公新書ラクレ) 作者:東浩紀 発売日: 2020/12/11 メディア: Kindle版 *「誤配」の実践拠点 東浩紀氏はその鮮烈なデビュー作「存在論的、郵便的(1998)」において、フランスの哲学者、ジャック・デリダのある時期にお…

【書評】源氏物語と日本人(河合隼雄)

" data-en-clipboard="true"> 源氏物語と日本人 紫マンダラ (講談社+α文庫) 作者:河合隼雄 発売日: 2013/08/16 メディア: Kindle版 " data-en-clipboard="true"> *「自分の物語」を見出すということ 人は生きていく上で「物語」を必要としてます。ここでい…

【書評】おはなしの知恵(河合隼雄)

新装版 おはなしの知恵 (朝日文庫) 作者:河合 隼雄 発売日: 2015/02/06 メディア: Kindle版 * 人は「おはなし」を必要とする 臨床心理学者、河合隼雄氏は折に触れて「私は私である」というアイデンティティ(自我同一性)の源泉としてファンタジーの重要性…

少女の〈あはれ〉と天使の〈まなざし〉--私に天使が舞い降りた!1〜8(椋木ななつ)

気ままな天使たち/ハッピー・ハッピー・フレンズ(通常盤) アーティスト:わたてん☆5 発売日: 2019/01/30 メディア: CD 私に天使が舞い降りた!: 1 (百合姫コミックス) 作者:椋木 ななつ 発売日: 2017/05/18 メディア: Kindle版 *「エス」から「おねロリ」へ …

言語からの自由と言語への自由--ロラン・バルト 言語を愛し恐れつづけた批評家(石川美子)

ロラン・バルト 言語を愛し恐れつづけた批評家 (中公新書) 作者:石川美子 発売日: 2020/02/14 メディア: Kindle版 * 第一人者による伝記風入門書 人は言語に囚われた生き物です。我々の思考や経験、行動や習慣、あるいは趣味や嗜好の様式は、母国語という言…

つぎはぎだらけの関係性を紡いでいくということ--星の子(今村夏子)

星の子 (朝日文庫) 作者:今村 夏子 発売日: 2020/01/31 メディア: Kindle版 * 特異な文体と普遍的な寓話性 現代を代表する作家、村上春樹氏は小説とは作家と読者との「信用取引」で成立しているといいます。そして、その「信用維持」において氏がもっとも重…

「セカイ」と「つながり」の間で--青くて痛くて脆い(住野よる)

青くて痛くて脆い (角川文庫)作者:住野 よる発売日: 2020/06/12メディア: Kindle版 * あの時、僕らは小さなセカイをつくった ゼロ年代初頭「セカイ系」と呼ばれる作品群が一世を風靡しました。「セカイ系」の定義については様々な議論がありますが、有り体…

「憐れみ」によって手を取り合うということ--「テーマパーク化する地球(東浩紀)」

テーマパーク化する地球 ゲンロン叢書 作者:東 浩紀 発売日: 2019/06/14 メディア: Kindle版 *「観光客の哲学」の舞台裏あるいは実践録 1990年代後半以降、日本社会においては「大きな物語」の失墜と呼ばれるポストモダン状況がより加速したと言われていま…

別の〈わたし〉を見つけるために--「一人称単数(村上春樹)」

一人称単数 (文春e-book)作者:村上 春樹発売日: 2020/07/18メディア: Kindle版 * 倍音を出す技術 フランス文学者の内田樹氏は村上春樹氏を「倍音を出す技術を知っている作家」であると評しています。「倍音」とは基本周波数の整数倍の周波数の音のことであ…

物語と文体の間--「みみずくは黄昏に飛び立つ(川上未映子・村上春樹)」

みみずくは黄昏に飛びたつ―川上未映子 訊く/村上春樹 語る―(新潮文庫) 作者:川上未映子,村上春樹 発売日: 2020/05/01 メディア: Kindle版 *「こちら側」と「あちら側」 臨床心理学者、河合隼雄氏はこころの病を癒す上で大切な事は「各人の生きている軌跡…

【書評】意味がない無意味(千葉雅也)

意味がない無意味 作者:千葉雅也 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2018/10/26 メディア: 単行本 * 〈意味がある無意味〉と〈意味がない無意味〉 「勉強の哲学」で一世を風靡したかと思えば「デッドライン」で野間文芸新人賞を受賞。自己啓発本から文…

「おめでとう」と「キモチワルイ」の間--新世紀エヴァンゲリオン(TV版/旧劇場版)

新世紀エヴァンゲリオン Blu-ray BOX STANDARD EDITION 出版社/メーカー: キングレコード 発売日: 2019/07/24 メディア: Blu-ray この商品を含むブログを見る * 戦後ロボットアニメの総決算 戦後日本において奇形的とも言える「発展」を遂げたロボットアニ…

コミットメントのコストをいかに処理するか--「1Q84(村上春樹)」

1Q84 BOOK 1 作者: 村上春樹 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2009/05/29 メディア: 単行本 購入: 45人 クリック: 1,408回 この商品を含むブログ (1247件) を見る 1Q84 BOOK 2 作者: 村上春樹 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2009/05/29 メディア: 単行本…

享楽のピアノとコンステレーションの物語--「蜜蜂と遠雷(恩田陸)」

蜜蜂と遠雷 作者: 恩田陸 出版社/メーカー: 幻冬舎 発売日: 2016/09/23 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (61件) を見る * 読むコンサート 第156回直木賞、第14回本屋大賞受賞作。7年以上に渡る連載中は全く話題にならず、おまけに度重なる取材によっ…

構造を内破する希望の在り処--魔法少女まどか☆マギカ

劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [前編] 始まりの物語/[後編] 永遠の物語【通常版】 [Blu-ray] 出版社/メーカー: アニプレックス 発売日: 2013/07/24 メディア: Blu-ray この商品を含むブログ (19件) を見る * 魔法少女なる構造 日本における魔法少女の黎明期…

「きずな」を紡いでいく、その力--あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。

あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。 Blu-ray BOX(通常版) 出版社/メーカー: アニプレックス 発売日: 2013/08/21 メディア: Blu-ray この商品を含むブログ (9件) を見る * 「ゼロ年代の想像力」の到達点としての「あのはな」 本作のタイトルは通常「…

「綺麗な嘘」を全力で吐くということ--風の帰る場所(宮崎駿)

風の帰る場所 ナウシカから千尋までの軌跡 作者: 宮崎 駿 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2013/12/27 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る * ニヒリズムとヒューマニズムの再接続 「その底知れない悪意とか、どうしようもなさとかっていうの…

再起動するセカイ--イリヤの空、UFOの夏

イリヤの空、UFOの夏 その1 (電撃文庫) 作者: 秋山瑞人 出版社/メーカー: KADOKAWA 発売日: 2014/03/26 メディア: Kindle版 この商品を含むブログ (2件) を見る * 「セカイ系」なるもの 新海誠監督の最新作「天気の子」の公開を機に最近再びそこらかしこで…

自己変革と愛の讃歌--イエスタデイをうたって(冬目景)

イエスタデイをうたって 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL) 作者: 冬目景 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2014/07/18 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る * ゆるやかな空気感の中で展開される恋愛群像劇 冬目景さんの不朽の名作「イエスタ…

デタッチメントとコミットメントの間--村上春樹・河合隼雄『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』

村上春樹、河合隼雄に会いにいく(新潮文庫) 作者: 河合隼雄,村上春樹 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2016/12/23 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る * 1995年という転回点 本書は村上春樹氏の代表作「ねじまき鳥クロニクル」完結直後の時…

関係性のアンサンブルが産み出す可能性--ひだまりスケッチ1〜9(蒼樹うめ)

ひだまりスケッチ 8巻 (まんがタイムKRコミックス) 作者: 蒼樹うめ 出版社/メーカー: 芳文社 発売日: 2015/05/15 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る * 「日常系」のトラディショナル 「日常系」なるジャンルは、もともとゼロ年代以降のサブカ…

「セカイ系」と「奇跡のバーゲンセール」の間にあるもの--Kanon

Kanon コンパクト・コレクション Blu-ray (初回限定生産) 出版社/メーカー: ポニーキャニオン 発売日: 2014/10/01 メディア: Blu-ray この商品を含むブログ (2件) を見る * 「泣きゲー」の先駆け 年頭に久しぶりに「Kanon」を観返しました。折角なので感想…

「リトル・ピープルの時代(宇野常寛)」〜「いま、ここ」に深く潜る想像力。

リトル・ピープルの時代 (幻冬舎文庫) 作者: 宇野常寛 出版社/メーカー: 幻冬舎 発売日: 2015/05/08 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る * はじめに 「ゼロ年代の想像力」で一世を風靡した気鋭の批評家、宇野常寛氏が震災直後の2011年7月に世に…