Kanon コンパクト・コレクション Blu-ray (初回限定生産)
- 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
- 発売日: 2014/10/01
- メディア: Blu-ray
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* 「泣きゲー」の先駆け
年頭に久しぶりに「Kanon」を観返しました。折角なので感想を簡単に書いておきたいと思います。
本作はゲームブランドKeyの記念すべき処女作で、1999年6月4日に18禁PCゲームソフトとして発売。シナリオに「泣き」「感動」の要素を取り入れた、いわゆる「泣きゲー」と呼ばれるジャンルの先駆けとなった作品と言われています。
2006年には京都アニメーションの手によりアニメ化が実現。10年以上前とはとても思えない今観ても非常に美しい映像です。
* あらすじ
なぜか7年前の記憶を思い出せずにいる祐一は「雪の街」で出会う5人の少女達との交流を通じて、幼い頃の大切な記憶を取り戻していきます。
* それは確かに透明で優しい物語だった
10年以上前でしょうか。初めてKanonを観た時、世の中にはこんなにも透明で優しい物語があったのかなんて、もうそれはすごくベタに感動したんですよね。真琴ちゃんの話なんてもしかしたら本当に泣いたかもしれません。
ただいま観るとどうしてもね、どこかメタな視点で見てる自分に気づいてしまうんですよ。ああ、これは泣いていいよっていうメッセージなんだろうな、ここはきっと感動しなきゃいけない場面なんだろうな、っていう風に。
けどこれは致し方ないのでしょう。私も普通に年齢を重ねましたし、何より時代が求める感動のポイントはやはりその時々で変わってしまうわけです。
* 「セカイ系」としてのKanon
「セカイ系」とはゼロ年代初頭のサブカルチャー文化圏を特徴付けるキーワードの一つです。典型的なセカイ系作品として「最終兵器彼女(2000年)」「イリヤの空、UFOの夏(2001年)」「ほしのこえ(2002年)」などが挙げられます。
セカイ系についての有名な定義の一つに「主人公(ぼく)とヒロイン(きみ)を中心とした小さな関係性の問題が、具体的な中間項を挟むことなく『世界の危機』『この世の終わり』など抽象的大問題に直結する作品群」というものがあります。
ややこしい定義ですが、要するにここで重要なのは主人公が「ヒロイン(想像的関係)」を媒介として「社会(象徴的関係)」からのデタッチメントと「セカイ(現実的関係)」へのコミットメントを同時に実現している点です。
この点、Kanonの少女達はどうでしょうか?主人公を全面的に庇護する幼馴染の少女(名雪)、主人公に依存する難病少女(栞・真琴)、主人公の盾となる戦闘美少女(舞)、そして主人公に奇跡をもたらす少女(あゆ)。
こうしてみると皆それぞれがセカイ系ヒロインの特性を極めてバランスよく担っていることが分かります。
* 「奇跡のバーゲンセール」という処方箋
すなわち、従来のような意味での「父」となることが難しくなった時代だということです。こうした時代の転換により、アイデンティティ不安に曝されることになった人々はひとまず「母」の承認の下で生き延びようとした。本作の背景にはこうした需要があったわけです。
認知行動療法に「シナリオ法」というものがあります。
これは認知の歪み(自動思考)を適正化する為の技法の一つで、全てが破滅に向かっていくというシナリオと奇跡が起きて全てが好転するというシナリオを考えます。こうした極端なシナリオの両方を考えてみることで、その中間にある現実的なシナリオが見えてくる。こうして認知の歪みを適正化していくわけです。
しばし本作は「奇跡のバーゲンセール」などと揶揄されたりすることもあります。けれど、その裏では、世界はそこまで悪くない、まだきっと人生捨てたものじゃないと、Kanonの紡ぐ奇跡に光明を見出した人も多かったのではないでしょうか。少なくともかつての私はそうでした。
そういう意味で本作は時代の急性期を乗り切る処方箋としての機能を果たしたと言えるでしょう。その功績は今後も決して色褪せることはないと思います。人生に行き詰まった時は是非Kanonを観てください。きっと何かが変わると思います。奇跡はあるんだよ、ファイトだよ。