かぐらかのん

本や映画の感想などを書き記していくブログです。

読書

思い込みと真理の在り処--現象学(木田元)

" data-en-clipboard="true"> 現象学 (岩波新書) 作者:木田 元 岩波書店 Amazon " data-en-clipboard="true"> * 生成変化する現象学 現象学は当初、その創始者であるエトムント・フッサールのもとで「厳密学としての哲学」を目指して出発したはずが、いつの…

幻想から現実へ--海辺のカフカ(村上春樹)

海辺のカフカ(上)(新潮文庫) 作者:村上春樹 新潮社 Amazon 海辺のカフカ(下)(新潮文庫) 作者:村上春樹 新潮社 Amazon * 近代教養小説的成熟と「別の仕方」での成熟 夏目漱石の中編に「坑夫」という作品があります。恋愛沙汰のゴタゴタの末、すっか…

【書評】ねじまき鳥クロニクル(村上春樹)

" data-en-clipboard="true"> ねじまき鳥クロニクル―第1部 泥棒かささぎ編―(新潮文庫) 作者:村上春樹 新潮社 Amazon ねじまき鳥クロニクル―第2部 予言する鳥編―(新潮文庫) 作者:村上春樹 新潮社 Amazon ねじまき鳥クロニクル―第3部 鳥刺し男編―(新潮…

幻想を横断していくということ--空電の姫君(冬目景)

" data-en-clipboard="true"> 空電の姫君(1) (イブニングコミックス) 作者:冬目景 講談社 Amazon 空電の姫君(2) (イブニングコミックス) 作者:冬目景 講談社 Amazon 空電の姫君(3) (イブニングコミックス) 作者:冬目景 講談社 Amazon " data-en-cli…

コミットメント過剰の時代における倫理としてのデタッチメント--世界のおわりとハードボイルド・ワンダーランド(村上春樹)

" data-en-clipboard="true"> 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(上)(新潮文庫) 作者:村上春樹 新潮社 Amazon 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(下)(新潮文庫) 作者:村上春樹 新潮社 Amazon " data-en-clipboard="true">* ビ…

ていねいに日常を生きるということ--カードキャプターさくらクリアカード編・1〜10(CLAMP)

カードキャプターさくら クリアカード編(10) (なかよしコミックス) 作者:CLAMP 発売日: 2021/04/01 メディア: Kindle版 * 思春期における少女の物語 人は自らの生を世界の中に基礎付けるため、その人なりの内的幻想である「物語」を必要とします。…

【書評】時間と自己(木村敏)

" data-en-clipboard="true"> 時間と自己 (中公新書) 作者:木村敏 発売日: 2019/10/11 メディア: Kindle版 " data-en-clipboard="true"> *「〈もの〉としての時間」と「〈こと〉としての時間」 我々の生きるこの世界は〈もの〉と〈こと〉という二つの位相か…

【書評】実存と構造(三田誠広)

実存と構造 (集英社新書) 作者:三田誠広 発売日: 2015/07/03 メディア: Kindle版 * 実存主義の萌芽 近代哲学を創建したルネ・デカルトはあらゆる存在を一旦疑うところから自らの哲学を立ち上げました。その結果、デカルトはこの世界に確実に存在していると…

「誤配」に満ちた「私小説」--ゲンロン戦記(東浩紀)

ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる (中公新書ラクレ) 作者:東浩紀 発売日: 2020/12/11 メディア: Kindle版 *「誤配」の実践拠点 東浩紀氏はその鮮烈なデビュー作「存在論的、郵便的(1998)」において、フランスの哲学者、ジャック・デリダのある時期にお…

【書評】デリダ 脱構築と正義(高橋哲哉)

" data-en-clipboard="true"> デリダ 脱構築と正義 (講談社学術文庫) 作者:高橋哲哉 発売日: 2016/09/16 メディア: Kindle版 " data-en-clipboard="true">* 形而上学と反-哲学 西洋哲学史はプラトン哲学の註釈史であるという有名な言葉があります。西洋哲学…

【書評】源氏物語と日本人(河合隼雄)

" data-en-clipboard="true"> 源氏物語と日本人 紫マンダラ (講談社+α文庫) 作者:河合隼雄 発売日: 2013/08/16 メディア: Kindle版 " data-en-clipboard="true"> *「自分の物語」を見出すということ 人は生きていく上で「物語」を必要としてます。ここでい…

【書評】おはなしの知恵(河合隼雄)

新装版 おはなしの知恵 (朝日文庫) 作者:河合 隼雄 発売日: 2015/02/06 メディア: Kindle版 * 人は「おはなし」を必要とする 臨床心理学者、河合隼雄氏は折に触れて「私は私である」というアイデンティティ(自我同一性)の源泉としてファンタジーの重要性…

【書評】こころの処方箋(河合隼雄)

こころの処方箋(新潮文庫) 作者:河合 隼雄 発売日: 2013/08/02 メディア: Kindle版 *「常識」なき時代の「常識」を問う 現代とはある意味で「常識」の失墜した時代です。時に誰かの「常識」は別の誰かの「非常識」となり得ます。ソーシャルメディアにおけ…

少女の〈あはれ〉と天使の〈まなざし〉--私に天使が舞い降りた!1〜8(椋木ななつ)

気ままな天使たち/ハッピー・ハッピー・フレンズ(通常盤) アーティスト:わたてん☆5 発売日: 2019/01/30 メディア: CD 私に天使が舞い降りた!: 1 (百合姫コミックス) 作者:椋木 ななつ 発売日: 2017/05/18 メディア: Kindle版 *「エス」から「おねロリ」へ …

存在の問いと生の在り処--「ハイデガー『存在と時間』入門(轟孝夫)」

" data-en-clipboard="true"> ハイデガー『存在と時間』入門 (講談社現代新書) 作者:轟孝夫 発売日: 2017/07/28 メディア: Kindle版 " data-en-clipboard="true">* 未完の欠陥商品 そのいかにも哲学書然とした荘厳なタイトルに重厚な記述。「20世紀最大の哲…

言語からの自由と言語への自由--ロラン・バルト 言語を愛し恐れつづけた批評家(石川美子)

ロラン・バルト 言語を愛し恐れつづけた批評家 (中公新書) 作者:石川美子 発売日: 2020/02/14 メディア: Kindle版 * 第一人者による伝記風入門書 人は言語に囚われた生き物です。我々の思考や経験、行動や習慣、あるいは趣味や嗜好の様式は、母国語という言…

価値を変える知の考古学--「ミシェル・フーコー 近代を裏から読む(重田園江)」

ミシェル・フーコー ――近代を裏から読む (ちくま新書)作者:重田園江発売日: 2014/01/31メディア: Kindle版 * フーコー愛に溢れた一冊 人は知らず知らずのうちにある種の固定観念で世界を捉えます。その固定観念の枠内にいる限り、時としてその世界は非常に…

つぎはぎだらけの関係性を紡いでいくということ--星の子(今村夏子)

星の子 (朝日文庫) 作者:今村 夏子 発売日: 2020/01/31 メディア: Kindle版 * 特異な文体と普遍的な寓話性 現代を代表する作家、村上春樹氏は小説とは作家と読者との「信用取引」で成立しているといいます。そして、その「信用維持」において氏がもっとも重…

【書評】わたしの哲学入門(木田元)

わたしの哲学入門 (講談社学術文庫) 作者:木田元 発売日: 2014/05/23 メディア: Kindle版 * 哲学の〈難しさ〉の正体 哲学とはなにか?これ自体が一つの哲学的問いであり、哲学とは今ひとつ実体のはっきりしないわけのわからない領域と言えます。にも関わら…

「あたりまえ」を解体する実践知--「フランス現代思想史(岡本裕一朗)」

フランス現代思想史 構造主義からデリダ以後へ (中公新書) 作者:岡本裕一朗 発売日: 2019/03/15 メディア: Kindle版 * ソーカル事件 「ソーカル事件」というものをご存知でしょうか?1995年、ニューヨーク大学の物理学教授、アラン・ソーカルは、いわゆる「…

「セカイ」と「つながり」の間で--青くて痛くて脆い(住野よる)

青くて痛くて脆い (角川文庫)作者:住野 よる発売日: 2020/06/12メディア: Kindle版 * あの時、僕らは小さなセカイをつくった ゼロ年代初頭「セカイ系」と呼ばれる作品群が一世を風靡しました。「セカイ系」の定義については様々な議論がありますが、有り体…

悦びと生成変化のあいだ--「ドゥルーズ 流動の哲学(宇野邦一)」

ドゥルーズ 流動の哲学 [増補改訂] (講談社学術文庫) 作者:宇野邦一 発売日: 2020/02/10 メディア: Kindle版 * バランスの良いドゥルーズ哲学入門書 1960年代、フランス現代思想のトレンドは「実存主義」から「構造主義」へと変遷しました。レヴィ=スト…

「憐れみ」によって手を取り合うということ--「テーマパーク化する地球(東浩紀)」

テーマパーク化する地球 ゲンロン叢書 作者:東 浩紀 発売日: 2019/06/14 メディア: Kindle版 *「観光客の哲学」の舞台裏あるいは実践録 1990年代後半以降、日本社会においては「大きな物語」の失墜と呼ばれるポストモダン状況がより加速したと言われていま…

別の〈わたし〉を見つけるために--「一人称単数(村上春樹)」

一人称単数 (文春e-book)作者:村上 春樹発売日: 2020/07/18メディア: Kindle版 * 倍音を出す技術 フランス文学者の内田樹氏は村上春樹氏を「倍音を出す技術を知っている作家」であると評しています。「倍音」とは基本周波数の整数倍の周波数の音のことであ…

物語と文体の間--「みみずくは黄昏に飛び立つ(川上未映子・村上春樹)」

みみずくは黄昏に飛びたつ―川上未映子 訊く/村上春樹 語る―(新潮文庫) 作者:川上未映子,村上春樹 発売日: 2020/05/01 メディア: Kindle版 *「こちら側」と「あちら側」 臨床心理学者、河合隼雄氏はこころの病を癒す上で大切な事は「各人の生きている軌跡…

環境の外側に立つということ--人はみな妄想する-ジャック・ラカンと鑑別診断の思想-(松本卓也)

人はみな妄想する -ジャック・ラカンと鑑別診断の思想- 作者:松本卓也 発売日: 2015/04/24 メディア: 単行本 * 実存主義から構造主義へ 1960年代、フランス現代思想のトレンドは「実存主義」から「構造主義」へと変遷しました。ジャン=ポール・サルトルに…

行動療法の現在--「はじめてまなぶ行動療法(三田村仰)」

はじめてまなぶ行動療法 作者:三田村仰 発売日: 2018/09/06 メディア: Kindle版 * 行動療法と認知行動療法 現代心理療法シーンにおける主流を占める行動療法・認知行動療法の歴史は大まかに3つの世代に分けられます。 1950年代、南アフリカで戦争神経症の治…

二層構造の時代における新たな公共性--「哲学の誤配(東浩紀)」

哲学の誤配 ゲンロン叢書 作者:東 浩紀 メディア: Kindle版 * 二層構造の時代における哲学 1994年、かつての「ニューアカデミズム」を牽引した浅田彰氏と柄谷行人氏が編集委員を務める「批評空間」第Ⅱ期第3号に「幽霊に憑かれる哲学--デリダ試論」と題さ…

対話による「新しい現実」の創出--「オープンダイアローグがひらく精神医療(斎藤環)」

オープンダイアローグがひらく精神医療 作者:斎藤 環 発売日: 2019/08/23 メディア: Kindle版 * オープンダイアローグとは何か フィンランドの西ラップランド地方トルニオ市にあるケロプダス病院のスタッフを中心に開発された「オープンダイアローグ(OD)…

スパイスカレーを知る上での新基準--「私でもスパイスカレー作れました!(印度カリー子・こいしゆうか)」

私でもスパイスカレー作れました! 作者:こいしゆうか,印度カリー子 発売日: 2019/06/07 メディア: Kindle版 * スパイスカレーの教科書 「何十種ものスパイス調合」「工程が複雑」「料理上級者向け」「普通はお店で食べるもの」等々。何かと敷居の高さを感…