かぐらかのん

本や映画の感想などを書き記していくブログです。

「ときめき」に耳を傾けるということ--人生がときめく片付けの魔法(近藤麻理恵)

 

 

 

* 「一気」に「短期」に「完璧」に

 
あの片付け本のベストセラーが今年改訂版となって帰ってきました。片づけが苦手な方はこの機会に一読してみるのも良いでしょう。
 
実は本書はずっと以前、初版の方を読ませていただいたことがあるんですが、その時には「しかし現実は」などとどこかで思ってしまい、正直きちんとした実践には至りませんでした。あれから歳月が経ち今ならきちんと、こんまりさんの考え方がこころに落ちてくるように思えます。
 
本書は、片付けには「日常の片付け」と「祭りの片付け」があり、一度でいいから一気に短期に完璧に片付ける「祭りの片付け」を終わらせることで人生が劇的に変わるといいます。
 
なぜ「一気」に「短期」に「完璧」に、なのでしょうか?なぜ無理なくゆるく片付けるのではダメなのでしょうか?これはおそらくこんまりメソッドが目指す到達点と関係しているのだと思います。
 
 

* ときめきますか?ときめきませんか? 

 
こんまりメソッドの基本はいたってシンプルです。片付けでやるべきことは「モノを捨てるかどうか見極める」「モノの定位置を決める」の二つ。そして、大事なことは「捨てる」が先ということ。まず「捨てる」を完璧に終わらせるまでは収納については考えない。
 
また、場所別ではなく、洋服、本類、書類、小物、思い出品といった「モノ別」に片付ける。あるカテゴリーに属するものを全部かき集めて何を残すかを判断する。そしてその際の基準は今やグローバルスタンダードとなった「ときめき」です。
 
触った瞬間にときめくかどうかで捨てるか残すかを判断する。ここではきちんと「触る」という身体的な感覚が重要になります。自分の頭の中では「ときめく」のカテゴリに入っているはずのモノも実際に触ってみると、もはや「ときめかない」こともあるでしょう。
 
「役に立たないモノ」を捨てるのではなく「ときめくモノ」だけを残すという発想ですね。
 
 

* モノの役割を考えてみる

 
もちろん本書は無闇やたらにただ捨てればいいと言っているわけではありません。
 
大事なのは捨てる過程です。一つ一つのモノに向き合いそこで湧き上がる感情を味わい、モノとの関係を消化していくわけです。
 
「ときめかないけど捨てられないモノ」についてはそのモノの役割をよくよく考えてみる。
 
なぜこれを持っているのか?私のところにやってきたことにどんな意味があるのか?
 
こういうことをよくよく考えてみると、案外その役割はすでに終わっていることがわかる。こうして役割を終えたモノたちは感謝の念を持って送り出す。
 
こんまりさんは昔、巫女さんをされていたことも関係してか、本書の文章の端々にはモノへの畏敬や愛情が滲み出ています。
 
 

* 「いま、ここ」で、ときめきますか?

 
こうしてモノを捨てられない本質的な理由を遡ってみると「過去への執着」と「未来への不安」に突き当たることがわかります。
 
しかし大事なのは「今、自分にとって何が必要か、何があれば満たされるのか、何を求めているのか」という「いま、ここ」ということです。
 
「本にこう書いてあるから」「誰かにこう言われたから」ではなくモノを自らの「生きた態度」で選択することが大事です。変なモノでも自分が「これが好きなんだ」と言い切れるものは堂々と残しておけばいい。
 
こうしたときめくかときめかないかという自らの内なる声に丁寧に耳を傾けていくプロセスの積み重ねにより、自分のモノの適正量や価値観がクリアになっていくわけです。
 
 

* 片付けによって見えてくる世界

 
要するに、こんまりメソッドが目指す到達点というのは、単なる家事テクニックの習得ではなく、クライアントの持つ世界観の切断と再構築にあるのではないでしょうか。
 
雑然とした部屋を「一気」に「短期」に「完璧」に「ときめきに満ちた空間」に変えることで、その人が持つ特異的なパーソナルリアリティのようなものが鮮明に切り出されることになる。
 
こうした世界観の切断と再構築による「自分は何が好きなのか、どうありたいか」という自己理解の深化は自信の源泉となります。こんまりメソッドの実践によって人生において様々な好循環が起きていくという多くのケースではおそらくそういうメカニズムが作用しているのでしょう。
 
この点確かに、ゆるく少しずつ片付けて気がついたらきれいなおうちになっていました、では、世界観が切断されず、そこまでのインパクトは持ち得ません。だからやがて部屋は散らかっていくし世界は何も変わらない。
 
つまり「片付けの魔法」が片付けるのは「モノ」でも「部屋」でもなく「これまでの自分自身」であるということです。
 
これはいわば「片付け」という行動実践を通じて認知変革を起こすある種の認知行動療法とも言えます。いま世界中で反響を呼んでいる理由もわかるような気がします。