再読です。このところずっとラカンばっかり読んでたけど、久しぶりに原点回帰というか、河合隼雄先生の本が読みたくなって、久しぶりに本棚から引っ張り出してきました。
河合隼雄先生っていうと、なんか、面白エッセイストとか、あるいは
文化庁長官をやってた人とか
高松塚古墳の件で吊るし上げられた人とか、そういう印象を思い浮かべる方も多いでしょうけれど、そもそもは日本屈指の
ユング心理学の専門家です。
本書はもう何十年も前の本ですが、
ユング心理学の導入本として本書を超える本は未だ無いでしょう。難解極まりないことで知られる
ユングの理論体系が簡明にまとめ上げられています(河合先生は文字通りの「
ユング心理学入門」という概説書も書かれていますけど、いきなりこれを読むのは無謀だと思います)。
この本は
アドラー心理学に馴染めない人にこそお勧めしたいんですよね。
心理療法の本って自分自身との「相性」が割と大事だと思うんですよ。
アドラーの心理学って、心が健全な人がさらに成長するための処方箋として絶大な威力を発揮するんだろう、とは思うんですけど、心がもうどうしようもなく病んでいる人の場合は、結構相性が悪い気がするんですよ。
アドラーの理論は、諸々の悩みを「個人全体のライフスタイルの歪み」という「自分自身の問題」へ帰属させるので、例えば気分変調性障害のように、ただでさえ自罰的なライフスタイルを持っている人にとっては、もうどこにも逃げ場がないんですよね。
この点、
ユングは、人の心を意識・個人的無意識・
集合的無意識の三層に分け、意識の主体である「自我」と異なる「別の人格」が無意識の中に存在するとします。
従って、諸々の悩みは「自我とは別の人格」が外界に投影あれることで引き起こされる問題であり、「自我」=「自分自身の問題」としては帰責されないということです。
なので、ひとまずは「逃げる」ことができるんですよ。
「逃げる」っていうとなんか語弊があるんですけど、本当に人がギリギリまで追い詰められた時、逃避できる場所があるのってすごく大事だと思うんですよ。
ユング心理学の根幹にある「相補性」や「
共時性」といった考え方に救われる方はきっと多いはずです。
これは逆に
アドラー心理学をある程度極めたと自負される方にとっても得るものは多いということです。
ユング独特の専門用語は一見、胡散臭いですけど、よくよく内容を読み解いていけば、わりと普遍的なことを言っていて、
アドラーに通じるものがかなりあるんですよね。御自身の考えをより深める良い刺激になるかと思われます。
この本を読んで、
ユングの理論、あるいは河合先生の文章と相性がいいなって思ったら、次は「コンプレックス」や「影の
現象学」なども読んでみるのがいいでしょうね。