かぐらかのん

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「保健、医療、福祉、教育にいかす簡易型認知行動療法実践マニュアル(大野裕)」を読む。「認知行動療法=ポジティブ思考」という誤解。

 

* 簡易型認知行動療法というアプローチ

 
保健、医療、福祉、教育といった諸領域において、認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy:CBT)に対するニーズは年々高まっていますが、専門家の人数不足など人的リソースが追いついておらず、そのニーズに対応し切れていないのが現状です。
 
そこで提唱されているが「簡易型認知行動療法」というアプローチです。簡易型(低強度)認知行動療法(Low-Intensity CBT)とは、定型的(高強度)認知行動療法(High-Intensity CBT)を基礎としつつ、書籍やICTなどの活用により、専門家の関与を極力抑えて実施されるものです。
 
本書は前半で、認知行動療法の基礎、代表的スキルの解説が行われ、後半はストレスマネジメント、生活習慣改善、睡眠教育など様々な分野での簡易型認知行動療法活用例の紹介という構成になっています。
 
著者の大野裕先生は国立精神・神経医療センター認知行動療法センター顧問。雅子さまの主治医としても知られています。聞くところによれば本書は定価を抑えるためあえて自費出版という選択をとったとか。背景には生起する多様なニーズに対して人的リソースが不足している現状に対する第一人者として強い危機感があるように思われます。
 

* 「認知行動療法=ポジティブ思考」という誤解

 
認知行動療法=考え方のクセを直す方法(認知再構成法)」というイメージが強いですが、認知行動療法の主要スキルは行動活性化、認知再構成法、問題解決技法、アサーションエスクポージャー、リラクゼーション、マインドフルネス等々、多岐にわたります。実際の臨床ではこれらのスキルを症状に応じて適時組み合わせていくわけです。
 
誤解されることが多いですが、認知行動療法の目的はネガティブな認知をポジティブな認知へ変えることではないんですよ。「私はきっとあの人に嫌われている」「こんなことが起きたのは私のせいだ」といったネガティブな認知が必ずしも間違っているとは限らないでしょう。認知再構成というのはあくまで現実を客観的に検証し問題を解決するための一つのアプローチとして、必要に応じて不適当な認知を修正するわけです。
 
認知・行動・感情は密接に連関しています。認知行動療法というのは、自動思考を現実的・適応的なものに再構成して行く認知的アプローチと、行動活性化、問題解決技法、アサーションといった行動的アプローチの連携によって現実的問題を解決することを通じて感情、そして症状を好転させて行くというものです。
 
ゆえに大切なのはポジティブ思考などという現実逃避ではなく、現実から目を逸らさずに問題解決へ向かう考え方ができるかどうかということです。
 

* 「囚われに対する気づき」を得るということ

 
認知行動療法の思考法や方法論はメンタルケアのみならず、家事やダイエットなどといった日常の様々な場面でも活用可能です。本書は表題の通り、保健、医療、福祉、教育といった諸領域において対人援助業務に従事するスタッフ向けに書かれたものであり、初学者だとややハードルが高い内容となっています。 初学者向けだと同じく大野先生が書かれたこちらの方がおすすめです。
 
はじめての認知療法 (講談社現代新書)

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私たちは案外、日々いろいろな所で「べき思考」や「白黒思考」といったものに囚われているわけです。自動思考を抽出し現実を丁寧に検証することでそういった「囚われに対する気づき」を得ることができるわけです。