かぐらかのん

本や映画の感想などを書き記していくブログです。

映画「スティーブ・ジョブズ(2015年)」を観る。飽くなき理想と野心の果てにあるもの。

スティーブ・ジョブズ。1976年、21歳でスティーブ・ウォズニアックと共にAppleを創業。1984年、革新的なグラフィカルユーザーインターフェイスを備えたMacintoshを発売。その後、社内政治の力学の結果、1985年にApple追放。以降、NeXT社の創業、ピクサーの買収などの紆余曲折を経て、1997年にAppleに電撃復帰。
 
1998年に発表したiMacは従来の何かと敷居の高いPCのイメージを刷新。2001年に発表されたiPodは音楽の消費スタイルのみならず音楽ビジネスそのものを一変。そして、2007年にiPhoneを発表。携帯電話を再定義し、人々のあらゆるライフスタイルに多大な影響を与えてきたのは、もう誰もが周知の通りです。
 
名言も多数。ペプシコーラのCEOであったジョン・スカリーAppleのCEOとして口説き落としたとされる「Do you want to sell sugar water for the restof your life, or do you want to change the world?(このまま一生、砂糖水を売り続けるのか、それとも世界を変えたいとは思わないのか)」は超有名ですね。
 
スティーブ・ジョブズの伝記的映画については2つの作品が存在します。ジョブズAppleについてあまり知らないという方でしたら、2013年版の「スティーブ・ジョブズ」の方から見た方がいいでしょうね。こちらはオーソドックスな伝記スタイルの映画となっています。
 
2015年版の本作は、いわば玄人向け。ジョブズの莫大な輝かしいキャリアの単なるダイジェストではありません。本作で描かれるのはなんと「1984Macintosh発表会」「1988年NeXT Cube発表会」「1998年iMac発表会」の本番40分前の舞台裏というわずか3つの局面のみ。
 
そしてこのいわば三幕構成のどの局面においても、同じキャラクター配置がされ、同じような台詞、シークエンスが反復されていく。
 
けど全く「同じ」ではないんですね。つまり、その少しずつずれていく反復の差分を丁寧に描き分けることで、ジョブズの天才CEOという側面からは見えてこない、まさに人間スティーブ・ジョブズとしての舞台裏に迫ろうとするというのが本作の試みです。
 
本作で描かれるジョブズはこれでもかというくらい自分大好き俺様野郎で清々しいほどのクズっぷりを披露してくれます。けれども、そんな一人の独善的かつ気分屋で誰よりも自己愛に飢えた小心者の男が、「どうしてもハローと言わせたいんだよ」という台詞に象徴されるように、飽くなき野心と理想の極北を追い求め、足掻き続けた泥の上に咲いた蓮の花として、いまのiPhoneMacがあるわけです。
 
そういう軌跡がよくわかる作品です。ある程度の予備知識とApple愛があれば、本作を観ることで、お手持ちのApple製品への愛着が深まることは請け合いでしょう。