本書の著者、光岡知足先生はあの「善玉菌・悪玉菌」の名付け親として知られる腸内フローラの世界的権威です。腸内フローラ(腸内細菌叢)っていう言葉はきっとどこかで聞いたことがあるでしょう。腸内における善玉菌、悪玉菌、日和見菌のバランスのことを言います。フローラとはラテン語で「お花畑」という意味で、細菌たちがグループごとにより集まっている様相からそう呼ばれています。理想的なのはだいたい善玉菌2割、悪玉菌1割、日和見菌7割っていう住み分けだそうです。
腸内フローラの改善は単に「お腹の調子を整える」だけにとどまりません。腸内フローラは風邪やインフルエンザといった身近なところから、血糖、血圧、がん細胞、さらにはセロトニンやメラトニン、女性ホルモンに至る様々なところに関わっています。
人の腸内には数にして100兆個以上、重量にして1㎏以上の腸内細菌が住んでいるのですから、もはや、体の中に別の生き物がいるといっていいレベル。腸内フローラを無視したヘルスケアなんてものはあり得ないと言ってもいいんじゃないでしょうか。
さて。腸内フローラを改善するにあたっては、プロバイオティックス、プレバイオティックス、バイオジェニックスという、3つのアプローチがあります。
まず、プロバイオティクス。毎日、ヨーグルトなどから外部乳酸菌を継続して摂取するアプローチです。世間でよく言われる「生きた乳酸菌を腸に届ける」というのがまさにこれであり、確かに基本中の基本ではありもちろん間違ってはいません。
ただ、外部乳酸菌が生きたまま無事、腸に辿り着いたとしても、多くは定住しないんですよ。腸の中にいる間は常在善玉菌と一緒に頑張ってくれるんですけど、悲しいかな結局はヨソ者。数日程度で体外に排出されるといわれています。
なので外部乳酸菌の摂取と同じくらいに、常在善玉菌を育てることも大事ということになります。そこで善玉菌のエサとなるオリゴ糖や水溶性食物繊維も積極的に摂取していく。これがプレバイオティックスです。なおプロバイオティックスとプレバイオティックスの併用をシンバイオティックスともいいます。
プロ野球で言えば、FAや助っ人外国人で補強しつつ、生え抜きも着実に育成するという感じでしょうか。
そして、最近では、生きた乳酸菌にこだわらず、死んだ菌を含む大量の菌体成分や代謝物を摂取したほうが、腸管免疫の活性の上では合理的であるいう考え方が有力になっています。これがバイオジェニックスです。
とりあえず、「上澄みだけかっさらう」という感じ、といえば聞こえが悪いですけど、腸内フローラの機能自体が低下しているお年寄りの方などには一番てっとりばやい方法ともいえるでしょう。
バイオジェニックスのメリットは、死菌のため品質が安定しており管理がしやすく、一度に文字通り桁違いの莫大な菌数を摂取することができ、かつ応用範囲が広いという点にあります。今後、様々な商品開発が期待されるところです。
光岡先生はバイオジェニックス理論の提唱者でもあり、記述の信頼性は抜群です。特に腸管免疫の仕組みに関しては最新の知見を交え、かなり詳細に解説されています。文章も大変わかりやすく、腸内フローラに少しでも興味があれば読んで得るものは決して少なくないでしょう。