かぐらかのん

本や映画の感想などを書き記していくブログです。

位相のズレた3つのセカイ--生き延びるためのラカン(斎藤環)

 
自称「日本一わかりやすいラカン入門書」。多分その看板にそこまで偽りはないと思いますが、何年も前の本ですし、いまさらこんなところで初学者が書評めいたことを書いてもどうかと思いますので、現時点での私的なラカン理解をノート風にまとめておきたいと思います。
 
要するに、我々(主体)は日々、位相が微妙にずれた三つのセカイを同時に生きているわけです。これをラカン用語で現実界想像界象徴界といいます。これは意識-前意識-無意識みたいな階層構造ではなく、互いにもたれかかった円環構造をなしており、三つのセカイは相互に連関しているとされます。 まず「現実界」は絶対に認識することは不可能な世界です。
 
そうです、この「現実」は絶対にどんなことがあっても認識できない。 ・・・もうなんかこの時点でお前は何を言っているんだという感じですが、これはちょっと考えればわかります。我々が日々暮らしているこの「現実のようなもの」は、感覚器官を通じて得た情報を脳内で「想像」したものに過ぎません。従って、我々がいま見ている「現実のようなもの」は「想像界」と呼ばれます。
 
そして、我々はこの現実を「言語(ラカンでいう「シニフィアン」)」というツールで理解する。例えば目の前に花が咲いているとします。我々はそれが「花」だと思う。ここに事象の認知→言語の選択という変換動作が介在するわけですが普段我々は「さあ今から目の前の『それ』を『花』だと理解するぞ」などと思ってやっていませんよね?従ってこの変換動作は無意識的なものということになります。つまり「言語」というのは無意識という別の世界(ラカンでいうところの「大文字の他者」)に存在するものというわけです。
 
さすがにこの辺りは精神分析の基礎理論がないとイメージしずらいかもしれませんが・・・ともあれ「言葉」とは何かを「象徴」するものであることからこの無意識的世界を「象徴界」と呼びます。文脈を外れたわけのわからないことを言う人を世間では「精神病」とか「統合失調症」などと言いますが、これは象徴界が壊れてボロメオの輪が外れかかっている現象と言えるわけです。また言語により現実全てを把握できるわけがなく、その掬い取りきれなかった残滓が欲望の原因と言うべき対象 a である・・・こういう理解で良いのでしょうか・・・?この辺りはまだよくわかっていませんので、他のいろんな本も読んでいって都度その成果(?)をここに書き連ねていきたい、などと思っています。
 
あとはもうどうでもいい私事ですが・・・昔、『ユリイカ』と言う雑誌で「魔法少女に花束を」っていうまどか☆マギカの特集があってて、その冒頭の評論を書かれていましたのが斎藤環さんです。その、内容はなんか・・・難しくてよくわからなかったんですけど、ただ「ラカン」と言うキーワードだけはよく憶えていて。いつかちゃんと勉強したいなって思いつつ、ようやく時ここに至るという感じでしょうか。ラカンに初めて触れた人は皆抱く印象なのかもしれませんが、本書でも何度か引用されているフランスの作家の言葉「変われば変わるほど、変わらない(Plus ça change, plus c'est la même chose.)」ならぬ「解れば解るほど、解らない」という、今はとりあえずそんな感じです。

「こころの天気図(河合隼雄)」を読む。ふんわり受け止めるということの難しさ。

 
 
長らく絶版本だったが今年装いを新たに復刻。かの名著「こころの処方箋」のアンサーソング的な立ち位置のエッセイ集ですが、こちらは聞き書きスタイルなので何ともふんわりとした優しい語り口に仕上がっています。
 
著者は言わずと知れた生粋のユング派分析家ですが、ユングのユの時も知らなくとも普通に良質な自己啓発本として読めます。けれども心理療法の知識素養が多少なりともあれば、また違った読み方もできて味わい深い。
 
むしろ巷の心理療法の専門書などでは学術的正確性などの諸々の問題などから、なかなかぶっちゃけて書けない「理論体系の舞台裏」のようなものを詳らかにしているのが本書であるという言い方もできる。
 
例えば、「中心を外さず、ずっとそばにいる(217頁)」「『ふーん』の難しさ、素晴らしさ(213頁)」「自分が不安定なほど、相手を詮索する(216頁)」「ここぞという時、逃げない」「怒りも、時には解決のきっかけになる(130頁)」「にもかかわらず『やる』と決意する(133頁)」などといったパラグラフはロジャーズ三原則の極意のようなものへのゆるやかな連なりを感じる。
 
教科書的に無条件受容、共感的理解、自己一致などといった概念を頭で理解しても、それは一体具体的にはどういった態度なのかを生き生きとイメージできなければ実際の人間理解の役には立たないでしょう。そういったイメージを豊かにする上で本書の河合先生の語りは有益な示唆を与えてくれています。

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